11.迷える子羊
お兄様が待つ部屋に帰る前に、落ち込んだパーシバルさんを励まそうと、私は外のベンチに彼を誘う。整備された花壇がとても素敵だったから、元気になるかなーと思って。
「どうせ私は皆から馬鹿にされていますよ…。」
「大丈夫ですよ。神は全てを見ておられます。貴方の正しさにいつか報いるでしょう。」
項垂れるパーシバルさんが、神殿に悩みを吐露しに来る迷える子羊に見えたので、聖女としての対応をしてしまう。
「我が家はお金稼ぎに腐心していて金だけはありますが、父親も出仕していませんし、名誉というものがないのです。爵位は高くても、彼らのように立派な父親がいる人たちには、金の亡者にしか見えておらず、見下されてきました。」
パーシバルさんから金持ちのボンボンの雰囲気を感じなかったから、意外に感じる。金があるならもっといい眼鏡したらいいのに。
「10年前に出会ってから彼らを見返そうと必死に頑張ってきましたが、無駄でしたね。」
「ほんと、気にしなくていいと思いますよ。親が偉いからって子どもも偉いわけではないですし。」
「世襲制である貴族に生まれてそのセリフが出るなんて、やはり聖女ですね。」
彼はクスリと笑った。笑われた意味が分からなかったが、すこし元気になったみたいで安心した。
「ここ、すごくお花が綺麗ですよね。それ専門の人がいるんですかね」
色とりどりの花が綺麗なコントラストを描いて、庭を彩っている。私たちも花を育てているが、ここまで綺麗じゃない。素人がテキトーに植えて、テキトーに水やってるだけだからかな。
「花が好きなんですか?」
「神殿って娯楽もないし、着飾る物もないんです。だから、お花でネックレスとか指輪とか作ってよく遊ぶんですよ。たまにポプリとか、押し花で栞とか作ってバザーに出したりもしますし。」
「それは素敵ですね。ここはきちんと整備されている花壇なのでそういったことはできませんが、ちょっと離れたところにある丘に花畑があって、そこは自由に花を取っていいはずです。」
「へぇ、それはいいですね。」
でも、わざわざ神殿から出てきたと言うのに、神殿でできることをしたくはないな。
なんかパーシバルさんが行きたそうに見えたけど、私は嫌なのでお兄様の元に帰ることを提案した。
お兄様に事の次第を報告すると「だろうな」くらいの軽い反応だった。パージバルさんへの信頼のなさに涙をこぼしそうだ。
お兄様の言葉に落ち込んでいるパーシバルさんを尻目に、今後の予定をお兄様と私で話し合う。
私が浄化しても、近くに魅了の術者がいてかけられている状態だと意味がない。
なので、私が魅了の被術者たちがアリシアと離れているところを狙って浄化したいのだが、学年が違う彼らに近づくのは難しい。それに浄化は距離が離れているとできないので近づく必要がある。そもそも本来なら浄化は触れてするもので、離れていてもできる私は天才なのだ。
「今あいつらシードラン嬢に夢中で他の女に嫌悪感まで持っているからね。トラパルト嬢が近づくのは難しいだろう。休日に彼らを呼び出そうかな。」
親を通せば言うこと聞くだろう、とお兄様は呟く。
「え?私が学校に来た意味は?」
「浄化して終わりではなく、シードラン嬢の愚行を止めるのが最終目的だから、そのために頑張っておくれ。」
「はーい!」
とりあえずまだ学校には通えそうだ。
被害者の人たちには悪いけど、そのことに私は喜びを感じてしまっていた。




