1.お兄様が変なこと言い出した
いつもの夕食の時間。
「俺…好きな人ができたかもしれない。」
そんなお兄様の一言で我が家には激震が走った。
「え?誰々?」
「身分は?」
「かもしれないって何?」
お父様、お母様、私と口々に疑問を投げかける。
周りにいた侍女、侍従や給仕係までも一瞬ざわっとした。
「みんな俺に興味ありすぎでは…?」
お兄様がこそばゆそうに頬をかくが、違うと思う。
「オーフェンは次期国王なんだから、相手は重要になってくるんだよ?分かっているかい?」
「あーそっちかぁ。」
そっちしかないでしょ。お兄様は国王の一人息子なんだから。そうツッコミたくなったけど、続きが気になりすぎるので大人しく口を閉じておく。
「で、誰なの?王妃になるに相応しい方なの?」
「うーん、多分母上は怒ると思う。」
「じゃあ諦める、の一択だよ。ちょうどいい機会だから、いいとこのお嬢さんとお見合いして、婚約者決めちゃいなよ。」
「我が妹ながらキツイなぁ。」
もうちょっと兄に優しくしようと思わないの?とお兄様は言ってくるけども、兄に優しい妹など創作物の中だけだと私は思う。
「で、誰なの?誰なのよ?」
「落ち着いて、母上。そもそも俺はその人と結婚したいとも王妃にしたいとも言っていないでしょうよ。」
「もしかして庶民なの?平民なの?あぁ…」
「えぇ…倒れないでよ。」
顔を真っ青にして椅子に寄りかかるお母様に、肩をすくめるお兄様。思い込みが激しいお母様がこうなることくらい予想できただろうに、何故こんな家族揃った場面で言い出したのだろう、この兄は。
「そもそも庶民じゃなくて、一応男爵令嬢なんだけど、その子は。」
「男爵令嬢…ダメよ、ダメダメ。」
「うん、そうだと思う。なんだけど…。」
「オーフェン、諦めて公爵家の令嬢方とお見合いしましょう。」
「…話進まないから、母上少しの間黙ってて。」
お兄様に軽く睨まれて律儀にお母様は口を手で押さえた。そんなお母様を可愛いなぁとデレデレ見ているお父様を私は軽く睨む。なんで部外者みたいな顔でいるの。
「今日ここで俺がこんなこと言い出したかというと、クリスティーナの意見を聞きたかったからなんだ。俺とクリスティーナが会えるのは週に一度の夕食の時だけだろう?」
私、クリスティーナはお兄様から視線を向けられて、怪訝な表情を浮かべた。
「意見とは?私も男爵令嬢が王妃というのは無謀だと思うよ。よほど優秀な人なら別だけど」
「あーそういう意見じゃなくて、お前は恋をしたことがあるか?」
思ってもみない質問に一瞬私はキョトンとしたが、次に沸いた感情は怒りだった。
この男、私の置かれている状況知ってるはずだよな?と。
「あるわけないでしょ。私、生まれてこの方、喋ったことがある男性はお父様とお兄様、お祖父様と神官長だけなんだけど。」
「いやでも、この部屋にも男もいるし、神殿にも男の神官いるだろう?交流がなくても見た目だけで好きになったりしないの?」
「無い。」
「使えないな。」
お兄様がイラついたのを見て、こちらのイラつきも増す。
「今私、お兄様のこと本気で嫌いになりそうなんだけど。あと『お前』っていう人無理。」
「あーごめんごめん。妹だからって気安くしすぎた。許してちょ。」
「なんも可愛く無いからな。」
思春期真っ只中の私は素直に許すことができない子なので、そう言い返しておく。
「ちょっとクリスティーナ、お口が悪すぎるわ。」
「母上はもうちょっと黙ってて。俺、これから結構重要な話をするから。クリスティーナも不快にさせておいてこんなこというのは虫のいい話なんだけど、真剣に聞いて欲しい。」
不真面目なお兄様が真剣な顔してこちらにお願いしてくるから、私は『仕方ないな』と鷹揚に頷いてやったのだが…。
「俺、巨乳が好きなんだ。」
真面目な顔で堂々と宣言するお兄様に私は開いた口が塞がらなかった。
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