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【短編集】 このネタ、温めますか?

とある町の仁義ニャき戦い(ΦωΦ)

作者: 吉遊

『そろそろ、決着をつけるときがきたようだな』


 まず最初にそう口を開いたのは、この街の商店街の北東側を支配する龍爪(りゅうそう)連合の頭であるリュウだった。


『ヘイヘイヘイ! もう決着はついてるだろ? ……アンタの負けでな、リュウ!!』


 明るいトーンでありながら好戦的な言葉を返した雄猫の名はトラ。商店街の南西側を支配しているタイガーファングファミリーのボスだ。

 何度となく縄張り争いを繰り広げる二つの組織は今、新たな戦いの一ページを歴史に刻もうとしていた。


『ちょっと、ボス。今日は作戦に通りにやってよね』

『わかってるぜ、ノエ。今日のオレサマは絶好調さ! オレサマが突っ込んで行って、あのリュウの野郎をブッ飛ばすんだろ?』

『もう! ぜんぜん違うよ!! ぼくがさっき言った作戦聞いてたの!?』


 参謀のノエの制止を振り切り、トラは不敵な笑みを浮かべてみせる。ギラリと光るのは立派な牙だ。

 もちろん、仇敵の威嚇に怯むようなリュウではない。こちらもその鋭い爪を研ぎ、戦闘の準備が完了したことを伝える。


『おい、オニギリ!』

『はい!!』


 リュウの合図に三下が尻尾をピンと張って頷きを返す。その隣にいた同じく三下のウメボシも自らの爪に力を込めた。


『新入りは下がって見てな」

『ウメさん……いえ、オイラも戦うッス』

『フン、足引っ張んじゃねえぞ。オニギリ、行くぜ!!』


 ウメボシの声が響いたのと同時に、リュウとその右腕たるダイジロー以外の龍爪連合の猫達が一斉にタイガーファングファミリーへと襲いかかる。


『三下程度が偉そうなこというなよー』

『そう易々とボスのところへ行けると思うな!』

『ハム! チーズ! 一人で行かずに囲んで攻めるんだ!!』


 作戦もなく突撃してくる龍爪連合に対し、タイガーファングファミリーは一対複数になるように陣形を組んできた。

 敵の作戦をいち早く察知したダイジローがリュウへと注意を促すが、戦闘へと意識を集中している頭はそれに気づかない。


『行け! 俺達の恐ろしさをヤツらに見せつけてやれ!!』

『…………』

『今日がそのトラ野郎の命日だ!』

『…………』


 無口な彼は頭に伝えることを諦め、仲間達を手助けするべく戦場へと駆けて行く。……しかし、時遅く。


『なっ!?』

『ちょっと突っ走りすぎたみたいだなー、ウメボシ野郎』

『いくらすばっしっこくても囲まれちゃあ意味がないだろ』


 持ち前の俊足を活かし真っ先に敵陣へと到着したウメボシに、すでに敵の凶爪が迫っていた。ハムとチーズの勝利を確信した笑みに、ウメボシは怯みながらも“シャー!”と威嚇の声を上げる。三下とはいえ彼も龍爪連合の一員だ。頭の顔に泥を塗るような真似はできない。


『くっ……ふ、二人だろうが三人だろうがやってやらぁ!!!』


 自身を鼓舞するように大声を上げるが、この絶体絶命のピンチは変わらない。ハムとチーズから繰り出される連撃を受け止めきれず、次第にボロボロになっていく。


『がは……っ』

『これでとどめだよー』


 倒れ伏したウメボシに、ハムが容赦のない追撃をかける。これが決まれば、まさに“とどめの一撃”となるであろう鋭い爪さばきだ。……だが、その爪がウメボシへと届くことはなかった。


『ぎゃあー』

『ハム!?』


 突然、横っ腹を殴られたハムはその衝撃のままに吹き飛ばされた。そう、ウメボシのピンチに疾風の如く現れたのは……。


『し、新入り!?』

『大丈夫ッスか、ウメさん?』


 なんと、龍爪連合に一昨日加入したばかりのコヘーだった。いつもの(ひと)の良さそうな顔を今はキリリと引き締め、先程のパンチに腰が引けているチーズを見据える。


『そんな……ハムが一発でやられるなんて!?』

『新入り……てめぇ、何者だ?』


 痛みに呻きつつも、コヘーへと視線を向けるウメボシ。今のパンチは只者ではない。三下のウメボシにもそれがわかった。

 コヘーはウメボシの問いに、真・猫無外流の構えで答えた。


『実は……オイラ、ネコパンチ七級なんス』

『なっ、七級!?』

『そんな強者(つわもの)がこの町内にいたなんて』


 いつの間にか彼らの戦いを観戦していた他の猫達にざわめきが走る。


『ヘイヘイヘイ! そこまでだぜ!! ……チーズ、オレサマが来たからにはもう大丈夫だ。ハムを連れてアジトに戻ってな』


 コヘーの強さに圧倒されていた仲間達を元気づけるかのように、トラは明るい声でチーズとコヘーの間に割って入った。

 ネコパンチ七級の猛者を前にしてウインクを飛ばす余裕のあるボスの様子に、タイガーファングファミリーの猫達は士気を取り戻す。


『……ボス自らお出ましッスか』

『ヘイ、コヘーつったか? やりすぎだぜ……ここからは、オレサマが相手してやるよ』


 明るい声に似合わぬ獰猛な視線に、コヘーは自分の毛が逆立つのがわかった。トラは強い。きっと今まで自分が戦ってきた誰よりも。


『それを俺が許すと思うのか?』

『頭! ……オイラは』

『コヘー、助かったぜ。お前のおかげでウメは無事……いや、まあ無事じゃねぇが、なんとか生きてる。んで、そこのバカをやるのは俺の役目だ』


 緊迫した雰囲気で睨み合うトラとリュウ。

 言葉を発するものはいない。先程まで怒号と叫び声に溢れていた戦場は、今は沈黙に支配されていた。ほんの一言でも発すれば、それが戦いの合図になることをこの場にいる誰もが理解しているからだ。


『あっ、ボス』


 しかし、その静寂はのんびりとした闖入者によって破られた。

 タイガーファングファミリーのNo.2であるアル・カポネだ。日向ぼっこが趣味の彼が抗争に遅れてくることは日常茶飯事だが、今回はタイミングが悪すぎた。


『ヘイヘイヘイッ!!』

『はぁあぁぁっ!!』


 彼の声を合図に、トラとリュウは同時に己の爪を繰り出した。互いの爪を打ち合い、その体勢のまま動きを止める。

 鍔迫り合いのごとくお互い一歩も引かぬ攻防を続ける二人に、アル・カポネはやはりのんびりとした調子で声をかける。


『ねぇ、ボス。ちょっと良いですか?』


 その問いかけに、周りにいた猫達は心の中で一斉にツッコんだ。“良いわけねぇだろ!!”と。


『もう! 良いわけないでしょ!! アル、見てわかんないの!? ていうか、遅刻してきてボスの勝負の邪魔するとかぼくが許さないからね!!』


 みんなの心を代弁するかのようにノエがアル・カポネへと苦言を呈す。

 キッと睨まれた彼は何をそんなに怒っているのかと参謀の言葉に首を傾げながら、懲りずに戦闘中のトラへと声をかけた。


『ボス達、家に帰らなくて良いんですか?』

『!』

『……しまった!』


 それまで死闘を繰り広げていたトラとリュウはその言葉にバッと顔を見合わせる。


『チッ、今日はここまでだ』

『あと少しでアンタをオレサマの爪の錆にしてやれたのにな』

『言ってろ。クソトラ』


 互いに罵り合いながら、同じ方向へと足を向ける町内を二分するボス達。去って行く彼らに、仲間達も帰り支度を始める。

 オニギリは負傷したウメボシに肩を貸しながら、呆然と立ち尽くすコヘーへと視線を向けた。


『どうしたんだ?』

『えっ!? ちょ、え!? 戦いはどうなったんスか!? なんで帰っちゃうんス??』


 さも当然と言わんばかりに戦いをやめる仲間達に、新入りのコヘーだけがついていけない。


『ああ、そうか。お前、隣町の生まれだったっけ?』

『そうッスよ』

『この辺では知らない奴いないから説明するの忘れてたわ。頭とタイガーファングのボスは野良じゃないんだよ』

『は?』

『二人とも同じ家に飼われてる兄弟なんだ。だから、メシの時間になると帰るんだよ』


 “二人が帰ったら抗争は終了な”とオニギリはあっさり話を締めくくった。


『……なんで、飼い猫が野良のトップに立ってんスか?』

『そりゃあ、強いからだな』

『飼い猫なら縄張り関係ないじゃないッスか』

『二人の縄張りというより組織の縄張りだからな』

『みんなはそれで良いんスか?』

『強い奴が偉い。簡単だろ?』

『…………』


 こうして、今日も猫達の猫達による猫達のための仁義ニャき戦いは終わったのだった。





【登場猫紹介】


龍爪(りゅうそう)連合 縄張りは商店街の北東側。惣菜屋が多い。

頭:リュウ(兄) まんま親分。好物はシーチキン。

若頭:ダイジロー 無口。頭が良いのに作戦を口にしないので頭脳があまり役立っていない。

新入り:コヘー 猫パンチ七級の強者。一人称はオイラ。“実は……”と後出し的に何か言う。

三下:オニギリ 米より具が好き。

三下:ウメ(ウメボシ) すっぱいのは苦手。


☆タイガーファングファミリー 縄張りは商店街の南西側。肉屋が多い。

ボス:トラ(弟) 明るくフレンドリー。口癖は“ヘイヘイヘイ”。

右腕:アル(アル・カポネ) のんびり。特技は日向ぼっこの場所取り。

参謀:ノエ ツンデレ。バカな仲間に“もう!”と怒りながら世話を焼く。

下っ端:ハム げっ歯類じゃないよ!

下っ端:チーズ 犬じゃないよ!

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