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キルエス・ガーレムその1

 僕は、ガーレムという土地の、領主の息子として生まれた。

 そこで何不自由なく育ち、何不自由なく過ごした。

 その頃は平和だったし、その頃は一生平穏な日々を過ごすと思っていた。

 

 それが普通だろう。

 まさか魔王が再び現れるなんて、誰が予想できただろうか。


 最初は噂程度だったし、誰も信じていなかった。僕だって信じていなかった。

 だけど、次第に本当の事だと判明し、人々は恐れおののいた。

 そしてついに、魔王軍は僕の住む領地に襲い掛かったのだ。


 しかし、ここは"狩猟国家アジェーレ"の領地の一部である。

 モンスターを狩る事を生業としている国である。

 つまり、魔王軍が多く率いている、モンスターは狩り慣れている。

 故に、僕の父さんも母さんも、それに領民たちも勇敢に戦った。

 激しい戦いの末、一度目の魔王軍の襲撃は撃退したのだ。


 だけど犠牲も大きかった。

 戦った者達のほとんどは死んでしまったのだ。

 当然、僕の父さんと母さんも。


 しかし、悲しみに暮れる暇はなかった。

 僕の予想では、再び魔王軍は襲ってくるだろうと思ったから。


 当時僕は15歳だった。

 本来であれば、領主の息子と言えど、僕の言う事なんて領民は聞いてくれなかったのだろう。

 勇敢な領主の息子で本当に良かったと思う。

 父の信頼の元、領民達は僕の話を聞き入れてくれて、街全体に罠をしかけたのだ。


 そうして、魔王軍の二度目の襲撃を迎えた。


 結論から言うと、僕たちは敗北した。

 当然だ。戦える者はみんな死んでしまったのだから。

 それでも粘ったのだ。


 街が壊れることも厭わずに仕掛けた罠で、多くのモンスターを倒した。

 しかし、魔王軍の行進が止まらず、多くの領民が蹂躙され、ついには僕も死を覚悟した。

 その時だった。

 王国の軍が間に合ったのは。


 王国の軍は強く。

 僕達が敵わなかった魔王軍を軽く倒してしまった。


 王国の軍が魔王軍を倒し切ったころに、馬に乗って僕に近づいてくる人物がいた。


「お前がこの軍の指揮官か?」


 そう声をかけて来た人間の顔を、僕は知っていた。

 いや、この国に住む人間なら誰だって知っているだろう。


 彼はこの国の王、ウィグランド・アジェーレなのだから。


「指揮官と言うわけでは……僕はただの領主の息子です」


 そもそも軍ですらない。ただの領民の寄せ集めである。


「元々間に合わないと言われていたのだが、お前のおかげで間に合ったようだ。見てみろ。生き残った領民達も感謝しているぞ。若いのに素晴らしい働きだな」


 そう褒められたのだが、僕はとても喜ぶ気にはなれなかった。

 実を言うと、全て計算通りだったのだ。

 僕たちが敗北するところまで。


 つまり僕は、全滅しないために、一部の領民を犠牲にしたのだ。


「もったいなきお言葉です」


 いくら不本意でも、王からの言葉は受け取らねばならないだろう。

 僕は膝をつき、そう答えた。


「うむ。ただ悪いが――」


 ウィグランド王が言いよどむ。

 何を言おうとしているのか、僕にはわかる。


「この領地はもう捨てねばならぬな」


 街はぼろぼろだし、生き残りだって少ない。

 そう言われても仕方がないし、そう言われるだろうと思っていた。

 だから、当然返しの言葉も用意していた。


「それでしたら、是非ウィグランド様の元で働かせてほしく思います」


 もう僕は領主の息子ですらないのだ。

 それならば、せめて両親のように勇敢に戦って死のう。そう思っていた。


「そうか。俺もお前が欲しいと思ったのだ。ここを見てな」


 こんな有様を見て、何を思うというのだろうか。

 暗い顔をしている僕に対して、ウィグランド王は、にっこりと笑いながら手を差し出してきた。


「おっと名乗るのを忘れていたな。"俺"はウィグランド・アジェーレだ。よろしくな」


 その手を取ったのが、僕の運命の分岐だったのだろう。


「僕はキルエス・ガーレムです。よろしくお願いします」


 これが、僕とウィグランド王の出会いだった。

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