ベナミス・デミライト・キングその6
どうにも騒がしくて目が覚める。
騒がしいのは外だ。
もうみんな起きていて、何かあったのかと思い、外に向かった。
何かあったにしては、俺を起こしに来る奴がいなかったわけだが。
そうして外に出て、目にした光景に俺は脱力する。
まだ仲間達が、お祭り騒ぎをしていたからである。寝ていないのだろう。
それだけ俺達の部隊に名前がついたことが嬉しかったのだろうが、今日だって戦に向かわなければいけないのだ。流石に寝て欲しい。
この部隊に名前がついたということは、国に認められたという事である。
それは本当にめでたいことではあるのだが、俺からしてみると、デミライト隊という名前にはいささか不満があるのだがな。
「おい、お前ら!大丈夫か?」
そう声をかけると、みんながそれぜれに声を上げた。大丈夫だと言いたいのだろうが、大丈夫には見えない。
だが、奴隷部隊を鑑みれば、三日三晩眠らずに働くこともあったわけで、この程度どうってことないかもしれない。
「まあいい、並べ。戦場へ向かうぞ」
片付けろとは言わない。片づけるのは"帰ってから"でいいのだから。
「おお!デミライト隊の初陣だ!」
そう声を出したのはダオカンだ。
名前が変わっただけで、それ以外は何も変わっていない。
だから、初陣などということはないのだが、わざとらしくそう言ったのだ。
皆もそれに乗っかり、歓声を上げたのだった。
♦
意気込んで戦場へと来た我々の部隊だが、戦場は代わり映えがなく、出番はあまりなさそうだった。
せいぜい、包囲している一角を襲うモンスターの駆除くらいだろうか?
それも率先してやるわけことではなく、兵の入れ替わりで、我々の部隊が包囲に加わった時にやればいいだけである。
だから、指示があるまで待機していた時のことである。
「おーい、ベナミス殿」
レミトル軍団長が話しかけてきたのは。
「おお、これはレミトル軍団長」
相変わらず、レミトル軍団長は暇そうだ。
いや、戦場を駆けまわることもあるので、代わりたいとは思わないが。
「先ほど着いたばかりなのですが、出番はなさそうですな」
それは、大変喜ばしい事である。
何故だかわからないが、この国に来てからというもの、妙に酷使されていた気がする。
見返りも大きいのはわかるが、俺はそんなものは求めていない。
「そうだな。このまま何事もないといいのだが」
魔族がそんなに甘ければ、今頃こんなことにはなっていないだろう。
それは、俺達だけではなく、みんなわかっていることである。
だから、レミトル軍団長も本気でこのまま何事もなく終わるとは思っていないだろう。
そう考えた矢先だった。
「なんだあれは……」
城壁に檻に入った巨大なモンスターが上がってきたのは。
「まさか……落とす気ではないよな?」
レミトル軍団長がそう呟くが、あそこに置いて、見せびらかして終わりなどということはないだろう。
その考えの通りに、檻は戦場へと投下され、巨大で醜悪なモンスターが放たれる。
そして、巨大なモンスターは咆哮した。
俺はその迫力に、ふらりとよろめく。
すると、よろめいた先で、誰かにぶつかった。
「行くぞ、ベナミス」
ダオカンだ。
その瞳は、真っ直ぐと巨大モンスターを捉えている。
なんと勇ましく、頼りになる姿だろうか。
「あ、ああ」
ついつい釣られて返事をしてしまった。
行くと言われても、行きたくないのだがな。
返事をしてしまった以上、始めるしかない。
「デミライト隊、行くぞ!」
俺の号令で、部隊が走っていく。
あの勝ち目のなさそうな、巨大モンスターへと。
そして、例え行きたくなくても、俺も一緒に駆けて行くしかないのだ。仲間と一緒に。
♦
巨大モンスターとの戦いは熾烈を極めた。
最初に、俺達が向かったのは別の方のやつが倒れたときは、見掛け倒しかと期待した。そう、俺のようにな。
だが、そんなことはなかった。
俺達の向かった先の巨大モンスターは手が無数にあり、その手で人間を簡単に引きちぎるのだ。
王国の兵士だけでなく、俺の仲間も何人も犠牲となった。
しかし、俺達が死ぬ気で戦っている間に、隣の巨大モンスターはウィグランド王によって討ち取られ、更にその加勢も加わって、ダオカンが止めを刺した。
そして、戦いは終わった。
文字通り終わったのだ。
俺達の敗北で。
巨大モンスターとの戦いは、多くの犠牲が出た。
特に怪我人が多く、この状態では、魔王軍に対抗できないとして撤退を決めたのだ。
俺達の進行で、魔王軍も深手を負ったはずだ。それにあのモンスターだって失った。
だからか、追撃はあまり激しくなかった。
痛み分けと言えば聞こえはいいが、これからどうなるかは俺にはわからない……。
俺に分かるのは帰ったら、仲間の墓を建ててやらないといけないことだけだ。