表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/228

レミトル・サメクその7

 良い気分で朝を迎える。

 なんでこんなに良い気分だったのか寝ぼけて思い出せなかったが、すぐに思い出す。

 歌だ。そう歌が聞こえたから良い気分で寝付けたのだ。

 歌姫様が昨日の夜歌ってくださったのだ。

 だから、きっと今日は"良い日になる"だろう。


 感謝の気持ちを伝えに行きたいくらいだが、そういうわけにもいかない。

 私は、この軍の軍団長なのだから。

 今日からは特別忙しくなるだろう。

 城に帰れない日も多くなると思う。

 今日が最後の気分で歌姫様の歌を聴きに行かないといけない。

 


     ♦



「~~~」


 そう心がけて、ウルスメデス様の歌を聴いたが――駄目だ。

 これが毎日聴けないのは、私には耐えられない。

 いや、我々にはだ。

 どうにかウィグランド王に頼み込んで、毎日城に戻れるようにしてもらおう。

 そう考えながら、私は出撃する。



     ♦



 私は時間をかけて、魔王軍の砦へと向かう。

 正直に言うと、心配だった。

 私が向かった頃には、砦を囲む兵は全滅していて、また一からやり直しとなっているのではないかと。


 だが、その心配は杞憂だった。

 戦場に変わりはなく、我々の軍が魔王軍の砦を包囲している状態のままであった。

 まあ、変わりがないという事は、進展もしていないということではあるのだが。


 しかし、無理に攻めれば、こちらの被害が大きくなる。

 攻城戦と言うのは難しいのだろう。

 だから、砦から出てくるモンスターを狩ったり、遠くから投石や魔法で砦の壁をちまちまと崩しているのだ。


 私は攻城戦などしたことがないが、歴戦の戦士である"ウィグランド王の策"であるならば間違いはないだろう。

 つまり、私にやれることはないのだ。


 戦場を見渡すと、ベナミス殿の軍を見つけた。

 いや、今はデミライト軍と言うのだったな。

 彼らは私と同じく、戦場に着いたばかりのようである。

 少し声をかけて見ることにする。


「おーい、ベナミス殿」

「おお、これはレミトル軍団長」


 まだ彼と会って、そこまで日が経ったわけではないが、なんだか彼とは接しやすいのだ。

 強さだけではない。これも部隊長の資質というものなのかもしれない。

 思えば、我がウィグランド王も人たらしな部分がある。


「先ほど着いたばかりなのですが、出番はなさそうですな」


 ベナミス殿は心なしか嬉々としているような気がする。

 最初の頃は、厳しい人間なのだろうと思っていたが、仲間が傷つかなくて済むことを喜ぶ仲間思いな人間なのだろう。


「そうだな。このまま何事もないといいのだが」


 私がそう言った瞬間だった。砦の城壁に"それ"が登って来たのは。


「なんだあれは……」


 "それ"は大きな檻だった。

 それも3つの。

 城壁に登って来たというよりは、城壁に無理やり乗せているという感じである。

 そして檻の中には、巨大なモンスターが入っていた。


「まさか……落とす気ではないよな?」


 そう思いたいが、あれをそれ以外に使うとは思えない。

 そして、当然のように檻は戦場に落とされた。


 檻はでかい音をたてて戦場に飛び込み、そしてバラバラになった。

 そして、当然中の巨大なモンスターが解放される。

 モンスターの見た目は醜悪だ。

 明らかに他のモンスターと違うのは見て取れる。

 解放されたモンスターの咆哮が戦場に――いや、遥か遠くまで響き渡った。


 私はその咆哮の前に立ち尽くす。

 だが、そんな私とは裏腹に、ベナミス殿は副官と一緒に戦場へ走って行ってしまった。

 その後ろ姿に私も我に返った。


「怯むな!ただの巨大なモンスターだろう!討ち取るぞ!」


 私が大声で号令をかける。

 だが、皆の反応は薄かった。

 もう既に、3体の巨大で醜悪なモンスター達は暴れだしており、戦場に聞こえるのは悲鳴ばかりだからだ。

 

「くそ!」


 私も戦場へと向かわなければ。

 そう思い、走りだそうとしたのだが、モンスターの目が――

 無数に目があるモンスターの目の一つが――私を捉えたような気がした。

 実際には、私だけを捉えたというわけではないのだろう。

 だが、それだけで私は動くのをためらってしまったのだ。

 

 しかし、次の瞬間であった。

 その目が消し飛んだ。

 いや、その目だけではない。

 他の目もだ。

 無数にある目が――全て吹き飛んだのだ。

 

 もちろん私は見ていた。

 誰ともわからない兵士が、そのモンスターを目にも止まらぬ速さで斬りつけていったのを。

 

 それは続き、そしてやがて、モンスターは身を沈めた。

 死んだのだ。


「お、おお……」


 幻かと思った。


「レミトル!」


 だが、私の名を呼ぶ声で我に返った。

 この声はウィグランド王だ。


「ウィグランド王よ。見ていましたか?」


 何をとは言う必要はない。

 当然、あの凄い光景をである。


「なんのことだ?」


 だが、ウィグランド王は見ていなかった。


「それは!」


 私が口で伝えようとするが、ウィグランド王が遮る。


「行くぞ!1体は倒せたのだ!残りの2体も倒せるはずだ!」


 ウィグランド王は勘違いなさっている。

 あれは仲間が倒したものではない。


 だが、私が口を挟む余地などなく、歓声があがる。

 巨大モンスターが"死んだという事実"と、ウィグランド王の号令が重なったのだ。

 

 その号令で、軍団の士気は戻り、皆巨大モンスターに向かって"死にに行ったのだ"。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ