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エインダルトその5

 そのピエロは、まるでいて当然とでも言いたげに、自然な動作で開いた扉を閉めた。


 だが、私は驚かない。

 妙な感覚はしたのだ。これが、勘というやつなのかもしれない。


「こういう時、人間はなんて言うんだ?」


 私は、ピエロに問う。

 答えるはずはないだろう。

 だが、普通の侵入者なら、後ろから殺しに来るであろう。

 普通でないなら、答えるかもしれない。


「そうだね……"夢か現か幻か"じゃないかな?」


 ピエロは、特に臆した様子もなく、返答する。


「なるほど。確かに幻のようだ」


 とても、納得する言葉だ。


「驚かないんだね」


 ピエロはそう言ったが、私の推測では、驚いて欲しかったのだろうと思う。


「まさか、驚いているさ。私の部屋まで敵が来たのは初めてだよ」


 そして私は今気づく、驚いているというより、嬉しいのだ。


「さて、お喋りはここまででいいだろう。その剣は飾りではないのだろう?」


 私は剣を抜いた。


「そうだね。そのつもりで来たんだ」


 ピエロも剣を抜く。

 あとは、やる事と言えば一つである。


 私が先に剣を振り上げた。

 振り上げた剣は、当然のように振り下ろされる。

 ただ、この短い動作で、いったい幾人の人間を殺して来たかわからない。


 だが、この人間は違った。


 剣と剣が合わさり、その動きが止まる。

 この、ふざけたピエロは、私の一撃を見事に受けきったのだ。


「流石といったところか?」


 もちろん、このピエロが誰かは知らない。

 だが、ここまで忍び込める人間が只者であるはずがない。


「そう褒められると、悪い気はしないね」


 ピエロは、余裕すらありそうである。

 ついつい笑みが漏れてしまう。

 戦闘狂と言うわけではないが、強者との戦いはたのしいのである。


 そしてそのまま、剣が何回も交錯する。

 それは、時には俺が攻撃し、ピエロが防御する。時にはピエロが攻撃し、俺が防御する。


「はっはっはっ!こんなに長く剣を交わしたのは初めてだ!」


 そう、ウィグランドですら、俺とここまで剣を交わすことは出来なかった。


「それは僕もだね」


 これだけ強ければ、それはそうであろう。

 だが、私の勝ちである。

 感触でわかる。奴の剣は限界だ。

 

 ほら、もう折れるぞ。

 そう思いながら、剣を振るう。

 一度、二度、そして、ほら折れた。


 しかし、不思議なものである。ピエロはとても驚いている。

 これだけ強ければ、それくらい予想できるであろうに。

 それに使っている剣もお粗末である。

 元からぼろぼろだった気すら――いや、やめよう。


「さて、どうする?」


 私は切っ先をピエロに向ける。


「困ったね」


 ピエロは折れた剣を投げ捨てる。

 ふざけた仮面で表情は見えないが、とても困っているようには見えない。


 その時、扉が勢いよく開いた。

 ベリッドだ。

 それはそうだろう。これだけ騒いだら来ない方が不自然である。


 だがその一瞬、目を動かした隙に、ピエロはもう窓の側に立っていた。


「に――」


 逃げるのか。と言おうと思ったが"やめた"。

 先日ウィグランドに、同じことを言われたのを思い出したからだ。

 それならば、言う事は一つだ。


「勝負はお預けだな」


 色々考えた。

 しかし、人間らしく言うなら、こうであろう。


「そうだね」


 表情は見えないが、ピエロが笑っているのが見えた。

 そのまま、ピエロは窓から落下する。

 かなりの高さはある。普通の人間なら死ぬだろう。

 だが、下を確認するまでもないだろう。


「何があったのですか?」


 荒れた部屋を見て、ベリッドが聞いてくる。

 来てすぐに、侵入者が帰ったのだ。

 そう聞きたくなるのも、無理はない。


「何があったかと聞かれればそうだな……楽しい事に乗り遅れたなベリッドよ」


 私は笑う。


「それは大変残念でした」


 ベリッドは笑いはしないが、洒落た答えを返してきた。

 

「さて、来てもらったところ悪いが、もう良いぞ」

「はっ!」


 先ほどと同じやり取りをする。

 少し前の事だというのに、随分前の事のように感じた。


 ベリッドが出て行き、今度こそ私は一人で休むのだった。

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