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グザンその1

 朝になり、俺様は目が覚める。

 と言っても、もう昼も近いのだが。

 

 まずは水道で顔を洗う。

 そして、クローゼットから服を選び、服を着替える。

 おかしい、入らない。

 体が大きくなったからだろうか。

 太ったとも言える。

 まあ、また新しい服を作らせればいいだろう。


 準備が終わると、窓の外を少し眺める。

 下の畑で、奴隷共が働いているのが見える。


「ふっ、俺様の為によく働くがよい」


 そう、ここでは一番偉い俺様の為にな。


 部屋の外にいる、"偽物の魔族ども"に食事を持ってくるように言う。

 偽物と言っても、人間と言うわけではない。奴らも魔族なのだろう。

 俺からしてみればあいつらは偽物というだけだ。


 部屋に運ばれてくる大量の食事は奴隷が作ったものだ。

 あいつらからしたら生殺しだろう。だが、厳しい監視の元に作らせているので、一口たりとも食べれやしない。

 たまに見に行くが、血走った眼で料理を作っているのが、面白いこと面白いこと。

 折檻覚悟で勝手に食事に手を出す奴もいる。

 そいつを鞭打つのも楽しくてしょうがないのだ。

 

 いつもなら、飯を食い終わると、どこかしらの奴隷をいたぶりに行くのだが、今日は月に一度の特別な日だ。

 時計を見る。

 そろそろだろう。


 そう思ってから間を置かずに、部屋の扉をノックもせずに、開いて入ってきた奴がいた。

 普通なら、例え部下であろうと、折檻するのだが。部屋に入って来たそいつには、そんなことは出来ないのだ。

 そんな俺の気持ちも知ってか知らずか、そいつは口を開いた。


「どうも、M0249。書類を提出してください」

「何度言えばわかるんだてめえ?俺はグザンだと言っているだろう?」


 悪態をつきながら、まとめてある書類をそいつ、"M0096"に渡す。

 M0096は簡単に言えば、俺と同じ魔族で、監査のような役割だ。

 別に立場が上の魔族だとは思ってはいねえ。

 だが、こいつに歯向かえば、俺は反逆者として、処分されてしまうだろう。

 だから、手も出せない。

 だが、悪態くらいはついてやる。こいつは悪態なんて気にしないからな。気にするほど感情が豊かではないのだ。


「いつものことですが、あなたの地区は非常に成績が良いですね」

「俺様が優秀だからだよ」


 これは間違いない事だ。


「そのやり方を早く教えて欲しいものです」

「そうだな……その難しいんだよ。なあ、言葉にするのは」


 これは嘘だ。

 簡単な事だ。魔族は飴と鞭が出来ない。俺は出来るけどな。

 鞭ばかり与えている馬鹿な魔族共の地域では、人間はバタバタと死んでしまうのだ。

 俺は違う。ほどほどに甘い飴をくれてやって、厳しい鞭も与えてやる。

 その方が人間ってのは働くんだよ。


 だけど、他の奴らに教えることはない。

 人間を飼うのが上手いのは俺だけでいいのだ。

 そうすりゃ俺の地位も上がるってもんよ。


「そうですか。それでは、私は次の所に行かないといけませんので」

「まあ、待てよ」


 嫌いな奴だが、敢えて呼び止める。

 別に何かあるわけではない。ただ、たまには話し相手が欲しいだけだ。

 ここには話し相手が人間くらいしかいないからな。

 その人間も、「あぎぃ」とか「うぐぅ」とかうめき声しか出しやがらねえしよ。


「何かあるのですか?」

「お前は納得してるのか?新しい魔王ってのによ」


 よくする話だ。

 俺達は先代の魔王に作られた魔族だ。これはいい。

 だが、先代の魔王は敗れた。


「何か問題でもあるでしょうか?」

「大有りだね。だってあいつは、俺達と同じ魔族じゃねーか」


 そう、今、魔王と名乗っているのは、俺達と同じ先代魔王に作られた魔族だ。


「あなたは嫌なのですか?」

「ああ、嫌だね。人に上に立たれるのは」


 先代魔王はしょうがない。俺達を作ったのだから。

 だが、現魔王は調子に乗っているとしか言いようがない。

 昔からあいつが仕切るのは気に食わなかったのだ。

 そう、あいつが魔王になる前から。


「ですが、大半の魔族は納得しています」

「お前はどうなのか聞いてんだよ」


 こいつは頭でっかちなのだ。先代魔王に忠誠を誓っているに違いない。間違いなくどこかに"ほころび"がある。


「魔王様がいなければ人間達に一矢報いることは出来なかったでしょう。それに、今魔族を作っているのは彼ですからね」


 偽物の魔族のことな。

 俺達は先代魔王様に作られた本物の魔族だ。

 だが、人間に一度敗れて、数が極端に減ってしまった。

 だから、新しい魔族が作られたのだ。

 それを作っているのは現魔王だ。

 新しく作られた魔族は、ただ言われた命令をこなすだけだ。まるで、昔の俺達を見ているようで気分が悪い。

 俺から言わせれば、あれは偽物だ。本物は俺達だけだ。


「何もないなら、これで行きますよ?」


 そう言って、M0096は去っていった。


「ちっ!つまんねーやつだな!」


 大きい声で言ってやる。

 聞こえていよーが構いやしない。

 どうせあいつは、俺達の中でも感情は薄い方だ。

 気にせやしない。


 元々、魔族は感情が薄かった。

 だが、何年も……何十年……いや何百年か?

 とにかく長い間、生きているうちに感情が芽生えるものが増えた。

 それでも、俺ほど感情豊かな魔族は稀だろう。

 

 M0096は自分に名前を付けない程、感情がない。

 俺は自分でグザンと名前をつけた。

 先の大戦で、俺が戦った中で一番強かった戦士の名前だ。

 だが、俺が戦うことはもうないだろう。

 もう魔族の勝利は確定的だ。


 さて、今日の仕事はもう終わりだ。

 視察が来る日は、他にはなにもしないと決めている。

 俺のところは優秀だから、視察なんてする必要がない。だからM0096はすぐ帰るんだ。

 

 というか帰ってもらわなければ困る。

 今日は飴の日だから。

 視察の日と、飴の日を、同じ日にしたのに意味はない。

 ただ、もしあれが見つかったら面白いことになると思っているからかもしれない。

 

 あの"革命軍ごっこ"がな。

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