ウルスメデスその4
「ウルスメデス様、ウルスメデス様」
そんな声が、どこからか聞こえてくる。
こんなに心地よいのに邪魔をしないで欲しい。
「ウルスメデス様」
ああ、わかっているよ。うるせえな。
すこしずつ、意識がはっきりしてくる。
朝だ。声の主は侍女である。
侍女があたしを叩き起こしにきたのだ。
「おはようございます。皆さま」
あたしは体を起こすと、"にこやか"に"お上品"に笑いながら、綺麗な声で挨拶をした。
本当なら気持ちよく寝ているところをたたき起こされたので、怒鳴り散らしたいところだが、我慢する。
それにしたって眠い。
最近は、規則正しく早寝早起きをしていたのだが、昨日は久しぶりに遅くまで起きていたからな。
遅くまで起きていた理由は、もちろんあいつだ。
夜遅くまで何をしてたかって言うと、それは簡単だ。
夜に男と部屋で二人きりですることと言ったら決まっている。
……なんてな。そんな空気には不思議とならなかった。
あたしは別に、久しぶりに"しても"良かったんだけど、夜中ただただ話していただけだ。
あいつは、話し方は鼻に着くが、中々面白い奴である。
今日の夜にも来るのだろう。
そして今は、夜の事を考えても仕方がない。
時間は押しているが、用意された朝食を取ると、服を着替えさせてもらう。
他にも化粧をしたりと、色々だ。
別に自分でもできる。元々自分でやっていたのだしな。
だが、わざわざ用意されているのだし、断るのも悪いだろ。
そして、準備も終わり、あたしは"ウルスメデス"となった。
♦
部屋を出ると、レミトル軍団長の後ろ姿が見えた。
あいつが、あたしの部屋の前を、時たまうろついているのは知っている。
だが、だいたい夜で、朝にうろつく事などあまりないはずだ。
昨日の事があったから、調子に乗っているのだろう。
はっきり言うと良くないことだ。
もっと言うと、うろちょろと煩わしいクソだ。
だが、一応軍団長のため周りの人間も注意しづらいのだろう。
そして、あたしもウルスメデスである以上、注意は出来ないのだ。
あたしは、ため息をつくと、仕方がないので話しかけてやる。
「まあ、レミトル様ではありませんか」
レミトルは驚くほど速い動作で、あたしの方を振り向いた。
その動きを戦場で生かせばいいのに。
「う、う、ウルスメデス様。昨日の今日で奇遇ですなあ」
そう言ってレミトルは笑った。
なにが奇遇なのだろうか。
あたしに会えるかもと期待して、ここをうろついていたのだろう。
あたしは、お前になんて会いたくないんだがな。
「昨日は本当にありがとうございました……」
だが、わざわざ夢を壊してやる必要はない。
どうせこいつも戦場で戦って死ぬのだ。一時的に夢くらい見させてやるさ。
「そ、そんな!頭をお上げください!たいしたことはしておりませんから!」
たいしたことどころか、なにもしていないだろう。
「今日も戦いに行くのですよね?」
あたしは、口元に手を当てて、目を潤ませる。
まるで、人が死ぬのを悲しんでいるように。
「それはもちろん。あな……あな!この国のためですから!」
"あなたのために"くらい言えないのだろうか。
それくらい言えないと、女には好かれないぞ。
いや、言えても、こいつじゃ好かれないか。
「大変ですね……私に出来る事があればいいのですが……」
当然、何もする気はないがな。
「い、いえ!ウルスメデス様の歌を、毎日聴かせていただいているだけでも、十分すぎるくらいです!」
本当にそうだろうか?
"あいつ"は何か違うと言っていた。
つまり、偽物の歌である。
偽物の歌で満足なのか?
いや、それはいいのだ。偽物なのは最初からわかっているのだから。
それよりも、そろそろ、その偽物の歌を披露する時間である。
「あっ……時間ですね。それではレミトル様。また……」
"また"が来るとは言っていない。
曖昧だが、期待を持たせる言い方だ。
"客"にはいつも言っていたよ。
「また来てね」って。
「はい!それでは、また」
そう言うレミトルの顔は、"見慣れた表情"だった。




