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レミトル・サメクその3

 朝になったが、昨日は寝付けなかった。

 ウルスメデス様と話したのは初めてではない。

 だが、あそこまで至近距離で長時間話したのは初めてだ。

 あまりにも幸せで、一睡もできなかったのだ。


 それでも、戦場に出るのを休むことは出来ないし、休む気もない。休んだらウルスメデス様の歌も聞けない。

 寝ていないことくらいは、たいしたことはない。

 そう考えながら、私は甲冑を身に着けると、部屋を出たのだった。

 


     ♦



 向かう先は、今日もベナミス殿の部隊だ。

 だが、私の足取りは勝手に、ウルスメデス様の部屋の方へと向かっている。

 まだ時間があるし、こちらからでも行けるからな。少し遠回りになるだけだ。

 それに、昨日の事もある。

 警備が虫も通さない程しっかりと、仕事しているか見に行かねばならない。

 そんな言い訳を、自分の心の中でする。


 そして、ウルスメデス様の部屋の前に到着する。

 門番達が私に向かって敬礼をする。

 

「うむ、しっかりやっているようだな」


 そう言うと、私はその場に背を向けた。

 ただ、警備を確認しに来ただけなのだ。

 長居は無用である。

 その時、後ろで扉が開く音がして、わたしは"どきり"とする。


「まあ、レミトル様ではありませんか」


 私は後ろからかかった声に反応し、私の人生で一番早い動きで振り向いた。

 そこには天使がいた。 


「う、う、ウルスメデス様。昨日の今日で奇遇ですなあ」


 私はそう言って、わははははと笑う。

 本当に奇遇である。

 会いに来た……なんてつもりはなかったのだが。


「昨日は本当にありがとうございました……」


 ウルスメデス様が深々と頭を下げる。


「そ、そんな!頭をお上げください!たいしたことはしておりませんから!」


 昨日で言うなら、本当に何もしていない。

 私が頭を下げたいくらいだ。


「今日も戦いに行くのですよね?」


 ウルスメデス様が口元に手を当てて、目を潤ませる。

 戦いというもの事体を悲しんでいるのであろう。


「それはもちろん。あな……あな!この国のためですから!」


 "あなたの為に"と言いたかったのだけど、言えなかった。

 私は、そんな気障な台詞が吐ける人間ではないのだ。


「大変ですね……私に出来る事があればいいのですが……」


 おお、なんとお優しい限りであろう。

 しかし、そんなことは必要ない。

 もう十分すぎるくらいしてもらっているのだ。

 それは、こうして話しているだけでも。


「い、いえ!ウルスメデス様の歌を、毎日聴かせていただいているだけでも、十分すぎるくらいです!」


 もちろん本業の歌でも。


「あっ……時間ですね。それではレミトル様。また……」


 どうして時間などというものがあるのだろうか?

 そんなものはこの世に必要なのだろうか?


 しかし、"また"と言われてしまった!


「はい!それでは、また」


 ウルスメデス様が侍女と警護に連れられて行く。

 私は、その姿が見えなくなるまで立ち尽くしたのだ。 



     ♦



 時間と言う概念を忘れてしまったため、遅れてしまった。

 だが、おかげで、今日の私は力に満ちている。

 "愛の力"だ。


「わかっていると思うが、今日から戦線に加わってもらう」


 ベナミス軍は、それを聞くと盛り上がった。

 嬉しい事だろうか?

 どの部隊も、嫌々戦うという程でもないが、ここまで好戦的な部隊は少ない。


「そうか。ただ、最初だからお手柔らかに頼むよ」


 そう言ったのはベナミスだ。

 彼は他の奴らと比べて、盛り上がっていない様に見える。

 "冷静"なのだろう。

 流石は人を統率しているだけある。


「ふっ……それは敵に言ってくれ」


 ベナミスが言いたいのは、そう言う事ではないのだろうが、私が戦線の担当を決めているわけではない。敵と言うよりはウィグランド王に言って欲しい。


「来て早々で悪いが、早く行くぞ」


 私は、ベナミス達を急かす。

 歌姫様の歌が始まる時間なのだ。

 私が遅れたせいで、話している時間はあまりない。

 間に合わなくなってしまったら一生後悔する。

 今日は戦えなくなってしまう程だ。


「わかった」


 そう言うと、部隊はすぐに並び動き出せる形になる。

 昨日もそうだが、この部隊の統制は凄く取れている。

 魔族に囚われていた奴隷という身の上が関係しているのだろうか?

 なんにせよ、とても助かる。

 これで、遅れずに済むからだ。



     ♦



 歌姫様の歌は素晴らしい。

 何度聞いても素晴らしいのだ。

 私の心は洗われ、全てを忘れさせてくれる。

 まるで、歌に抱擁されているようだ。

 自然と目元から涙が流れる。

 言葉を発したくても発せない。言葉に出来ない程、感動してしまうのだ。


 だが、それも終わりが来る。

 歌が終わると、湧き上がってくるのは喪失感だ。しかし、その後すぐにある気持ちが湧き上がってくる。

 この歌を守らなければならない。


 この気持ちを持って我々は戦場へと向かう。

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