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ウルスメデスその3

 あたしは、あたしの部屋に迷い込んできた不審者を捜したが、見当たらない。

 その時、ふと、衣装棚が目に入った。


「……」


 まさか、衣装棚に隠れたりはしていないよな?

 別に"今更"その程度の事、気にもしねえが――それは、とんだ変態野郎だ。

 念のため確認してやる。

 

 そう思い、衣装棚の前に立ったが……妙に緊張する。

 それは別に、あの変な野郎が襲い掛かって来るとか考えているわけではない。

 あたしがかくまった奴が、変態野郎だったら嫌だからだ。

 意を決して、衣装棚を開ける。


 良かった誰も居ない。


 こんこん。


「ひぅ!」


 その時、部屋の扉が叩かれて、あたしは驚いてしまった。

 

 扉まで向かい、扉を開けると、侍女が飯を運んできただけだった。

 そういえば、飯を頼んでいたのを忘れていた。

 あたしは台車に乗った飯を受け取ると、部屋に誰も入らないよう、侍女に念を押して扉を閉めたのだ。


 しかし、あいつはどこに行ったのだろう。

 そう思いながら、台車を運ぼうと振り返ると、そいつは現れた。


「っ!」


 驚いたわけではない。

 少し油断していただけだ。

 それに、こいつが変な見た目をしているからだ。


「どこに隠れてたんだよ」


 あたしは平静を装って、台車を机の近くまで運ぶ。


「そんなことはどうだっていいじゃないか」


 どうでもよくない。

 あたしの部屋だというのに、まるで気配も感じなかった。

 それって不気味だろ?


「それよりも、なんで僕を庇ったんだい」


 そう。そこからだろう。

 だが、逆にあたしが聞きたいのだ。


「あたしの歌は変か?」


 質問に質問で返すな。

 そう言うやつもいるだろう。

 だが、あたしは行儀が悪いんだ。


「いいや。とても素晴らしかったよ」


 おかしいだろう。それは矛盾している。


「じゃあ、なんで違うなんて言ったんだ?」


 そんなことは"初めて"言われたのだ。

 これは、ウィグランドにだって言われたことがない。


「さあ?そう感じたからだね」


 なんともふざけた返しだ。

 こんな曖昧な答えを聞きたかったわけではない。


「あたしを疑う奴らはいるけどよ――あたしの歌を疑う奴はいなかったんだよ。それがお前を庇った理由だよ」


 そして、その答えが知りたかったのだ。

 それが当てずっぽうだなんて、やっぱり衛兵に突き出しとくべきだった。


「ああ。そもそも、僕は君を知っているのか、知らないのかわからないからね。疑うこともないのさ」

「は?」


 こいつはあまりにも意味の分からないことを言う。

 頭がいっちゃってる系なのだろう。

 ピエロのお面をかぶってるくらいだしな。


「それにしても、随分食べるんだね」

「ああ、歌うのはな。疲れるんだよ」


 それに、豪勢な食事というのには憧れていたんだ。

 だから、毎日豪勢な食事をしたっていいだろ。


「やらねえぞ」


 あたしは食べている物を、ピエロから隠した。


「いらないよ」


 やらないとは言ったが、いらないとはなんだ。

 食べ物って言うのは"大事"だというのに。


「ところで……いつまでいる気だ?ここは男子禁制だぜ?」


 正直、食べているところを横で見られているのは落ち着かない。

 それに、男子禁制というのも一応本当だ。

 あたしは気にもしないけどな。

 というかこのピエロは……男だよな?


「そうだね。ただ気になっただけだし、もう帰ろうかな」


 そう言うと、ピエロはあっさりとあたしの後ろへと向かう。

 どうやって帰る気かは知らないが、きっとこのまますれ違って振り向くともういないのだろう。そんな気がした。


 だからあたしは、すれ違う時にピエロの腕を掴んだ。


「なに帰ろうとしてんだよ?」


 帰れと言ったのはあたしだ。

 だが、引き留めたのもあたしだ。

 傍から見れば、あまりにも理不尽だろう。


 だが、ピエロは何も言わずに、黙って椅子を持ってきて、あたしの向かいに座った。


「あたしはさ。見ての通り籠の中の鳥よ」

「これほどぴったしな言葉もないだろうね」


 よくわかってるじゃないか。

 

「それに素が出せるところもない」

「それは肩が凝りそうだ」


 なんだかピエロの態度は"むかつく"。

 このすかした感じ。あたしは大嫌いだね。


「つまりよ。退屈なんだよ」


 それでもだ。

 これはいい機会だろう。


「なぁ!言いたいこと。わかるだろ?」

「話し相手にくらいなろうか?」


 逆だ。逆。


「あたしが話し相手になってやるんだよ」


 ピエロはやれやれという風に、手のひらを上に差し出す。


「それは光栄だね」


 あたしは手を差し出す。

 ピエロはそれに答えて、あたしたちは握手をした。

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