表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/228

ウルスメデスその1

 あたしの"今の仕事"は簡単だ。

 歌う事である。

 こんなに簡単な事で、お姫様の様な生活を出来るのだから笑ってしまう。


 辛い事と言えば、朝早くから起きないといけない事だ。

 "夜に商売をしていた"から、朝早く起きる習慣なんてなかった。

 むしろ、朝まで起きている方が楽なくらいだ。

 でも、それをすると後半が辛いからやめた。


 まあ、規則正しい生活も慣れてしまえば楽なものだ。

 だから、それくらいは我慢しよう。

 あたしは"今"は、みんなの歌姫なのだから。


 朝早くに起きて、豪勢な朝食をとり終わったころに、あたしの部屋に、たくさんの女共が入って来て、あたしを着飾る。

 それを、あたしは黙って受け入れるのだ。

 そうして、歌姫ウルスメデスが完成する。

 上手いものだ。

 "偽物"なのに。


 と言っても、みんな本物だと思っているし、それに――


 あながち偽物というわけでもないのだ。


 あたしを偽物だと知っているのは、この国には二人しかいない。

 あたしを拾った、国王と軍師だけだ。

 

 この生活は悪い生活じゃあない。

 頼めばなんでも用意してくれるし、どんな豪勢な食事も食える。

 ただ窮屈だ。

 どこに行くにしても衛兵が付いてくるし、窓もない部屋に閉じ込められる。

 そりゃあ魔族との最前線なのだから、仕方がないだろう。

 あたしだって死にたくはないしな。

 だけど、毎日同じ事ばかりしていたら、気が滅入るというものだ。


 あたしからの見返りは、ちょっと歌で、男どもを誘惑するだけだ。

 そういう意味では、"今までとやる事は変わらない"かもしれない。

 そう考えると、ついつい笑えてしまう。

 

「キヒヒ」


 その笑い声に、側にいた侍女達が驚いて、あたしの方を振り向いた。

 あたしは、「ふふ……」と笑って、適当に誤魔化す。


 おっといけない。

 つい、素の下品な笑いが出てしまった。

 今のあたしは、歌姫ウルスメデスなのだから。

 お上品にしないとな。

 外面だけだが。



     ♦



 そして、あたしは今日も舞台へと立つ。

 なんだか、今日は人が多い気がする。

 まあ、別にいいか。

 やる事は変わらないのだから。


「~~~」


 歌うのに、好きとか嫌いとかはない。

 ただ、あたしにこんな"才能"があるとは知らなかった。

 どうせなら、もっと早くに気づかせてくれれば、もっとましな人生があったかもしれないのに。

 そんなことを考えながら、あたしは歌う。


 自分ではわからないが、あたしの歌は特別らしい。

 あたしの歌に涙を流す兵達までいるくらいだ。

 その感覚はわからないが、それだけあたしの歌が凄いという事で、悪い気はしない。


 特別と言われても、あたしからしてみれば"こんなものは簡単"なのだけど。


 歌い終わった後は、兵士たちを送ってやる。

 もちろん戦場と言う名の、死地にだ。


「みなさん。頑張って来てください」


 あたしのためにな。

 心の中でのみ、そう付け足して置く。


 笑えることに、これだけで本当に死ぬ気で戦うと言うのだ。

 本当に男と言うのは単純だ。

 と言っても、大変好都合である。

 これだけで、戦争に勝てると言うのなら、"気持ちの悪い笑顔"も作ってやるさ。


 そうして、兵達を見送ると、また新しい兵達がやってくる。

 そう、また歌わなければいけないのだ。

 別に好きでもない歌を、何回も歌わされるのだ。

 流石に嫌気もさす。

 だけど、この贅沢な生活の為に、いくらでも歌ってやるのさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ