ベルテッダ・シュクラその8
俺は今、学園まで来ている。
別に、あのババアや、あのお嬢ちゃんが心配になったわけではない。
部屋で待ってても、ピエロの野郎は来ないし。
ただ、いつ頃この国から逃げ出せばいいのか気になっただけだ。
学園の警備は相変わらずザルである。
簡単に中に入れてしまう。
適当な部屋に入ると、魔導書が積まれていて、盗みたい放題だなと思う。
まあ、この国のものは勘弁しといてやろう。
そうして、奥へと入っていき、例の部屋の前へと辿り着いた。
この部屋がなんなのか知りもしないが、この部屋で"事"が起こっているのだと俺の勘が告げている。
さっそく鍵を開けたいところだが、鍵穴はない。
これでは俺の開錠の技術も役に立たない。
それに耳を当てて見たが、中の音も聞こえない。
そうしている時だった。
扉が開いた。
俺はと言うと、扉に耳を当てた状態だったため、姿勢を崩して、扉の中に向かってこけてしまった。
「いてて……」
自然と上を見上げると、ババアとお嬢ちゃんが俺の事を見下ろしている。
「何をやっているのですか?」
余りにも"お間抜けな所"を見せてしまい、かなり恥ずかしい。
俺はサッと立ち上がった。
「どなたかと思いましたが、昨日の方ですか……」
顔を見せるのは二度目だが、忘れられていなかったのは幸いだろう。
「どうなったんだ?」
俺は先ほどの間抜けな事などなかったかのように、右手を上げて壁に着け、左手を腰につけ、恰好を付けた姿勢をとる。
「もちろん魔族は滅しましたよ。中を見ますか?燃えカスしか残っていませんが」
恐ろしい事をあっけらかんと言うものだ。
「いや、やめとくよ」
俺は手を上げて、降参のような体勢をとる。
興味がないわけではないが、部屋に入ったらそのまま閉じ込められそうだ。
「ところで、あなたは随分と呑気ですのね」
こんなところまで忍び込んできておいて、という意味だろう。
「少し見たら帰る予定だったんだけどな。予定が狂ってね」
そう言うと、ババアが何か考え込みだした。
なんだ?変なことは言ってないと思うんだが。
「予定。予定ですね。あなた方のおかげで、こちらも随分と予定が狂ってしまいました」
あなた方と言われるのは心外だ。
"あいつ"がいなければ俺は何もしなかった――というわけではないか……。
「ところで、あなたは"この国にいる間"は盗賊は廃業だと言っていましたよね?」
「あ、ああ」
先程までの、悩んでいるような真剣な顔つきと違い、ババアはニコニコと笑っている。
その様子を見れば、誰だって思うだろう。
とても嫌な予感がするのだ。




