ベズンその6
俺は、分析に特化した魔族である。
しかし、それと同時に魔法に特化した魔族である。
その俺が、こんな……
「こんなことになるなんて」
まず、ババアがおかしい。
ババアは好き勝手に暴れ回る。
「ほほほ、ババアだと侮りましたね。ババアでも強いのですよ私は」
そう言いながら、俺を殴りに来る。
だが、ババアだけなら勝てる。
そう思う。
しかし、もう一人の少女はもっとおかしいのだ。
魔族は人間なぞとは比べ物にならない程強い。
強いはずなのだ。
魔法に特化した魔族の俺が、魔法で押し負けるなどありえてはいけないのだ。
「えい!」
「やあ!」
そんな気の抜けた掛け声とともに放たれる魔法は、俺の魔法を相殺するどころか、一方的に蹂躙する。
だから、俺は避けるしかない。
だが、避けた先で、ババアに殴られる。
嵌め殺しである。
しかも、ババアは言う。
「アミュス学園長。私に遠慮せずに、もっと強い魔法をつかってもいいですよ」
つまり、これは手加減をしているということだろう。
いいや、はったりだ。
「嘘ばかりつくなババア!」
「嘘?私は、あなたに嘘をついたことはありませんよ?」
そんなはずはない。
「命が惜しいと言っていただろう」
「誰だって命は惜しいですよ」
人間はそうかもしれない。
魔族は違う。自分の命には興味がない。そう言う風に作られたから。
「国を裏切っているというのは?」
「魔族を勝手に国の中に入れているのは、裏切っていると言ってもいいでしょう」
それは違うだろ。
「じゃあ魔族を狩っていたのは?」
「それは私も本当に知らないのですよ。情報を流さないために、狩る予定ではあったのですが、死体は見つからない様に持ち帰っています。だから私も驚いたのです」
意味が分からない。
偶然、"魔族を狩るのが趣味の人間"がいたとでも言いたいのだろうか?
「何故そんな回りくどい事をする?」
「それはもちろん。私達はあなた方を見くびっていないからです。逆にあなた方は人間を見くびり過ぎですね」
当たり前だ。人間と魔族では、圧倒的に強さに差があるのだから。
いや、あるはずなのだから。
「おしゃべりな方も多いのですよ。あなたはそうでもないですけどね。本当はもっと時間をかけて情報を聞き出すのですけど……少し事情が変わりました」
お喋りなのは貴様もだろう。
「あのー?」
凄く、間の抜けた声が響く。
もちろん気づいている。
膨大な魔力が集まっていることに。
"俺は飛び退く"。
「えい!」
相変わらず気の抜けた声と共に、炎の魔法が放たれる。直前に俺が動いたから、魔法を撃つ方向を"修正して"。
これが手加減していない、威力なのだろう。
俺は為すすべもなく、炎に巻き込まれる。
そして、俺の近くにあった、この部屋の中央の装置も同様に。
中央の装置は火を吹き、爆発した。
「あっ!」
もう遅い。
俺は死ぬだろう。
だがこれが、俺の勝ちだ。
「あらあら?」
ババアが余裕がありそうな声を出した。
その様子でわかる。
ああ……そうか……駄目なんだな。
ほぼ燃えカスとなり、辛うじて体の体を保っているだけの俺に、ババアが近づいてきた。
「あれは嘘だったのか?」
「あれと言うのが、どれかわかりませんが。結界は"ここ"で作り出していると言いましたよ」
ババアが自分の体をトントンと叩く。
その顔は、驚くほど邪悪だった。
だが、まだ終わっていない。
俺が死んだとわかれば、弟は魔族領に帰るだろう。
当然、今知った情報は持ち帰れないが。
ババアの手が迫る。
あとは頼んだぞ弟よ……。




