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ベズンその5

 俺達は二人一つで作られたが、二人とも大戦を生き抜いたのは奇跡だろう。

 俺達以外に、二人一つで作られた魔族はいない。

 もしかしたら、魔王様は何か欠陥に気づいたのかもしれない。

 だが、欠陥があったとしてもどうでもいい。

 それでも俺達は大戦を生き抜いたんだ。


 しかし、ババアは来るのが遅い。

 自分達から何もできないのは、大変歯がゆい思いだ。

 まさか、また遅刻してくるんじゃないだろうな?と考え出したあたりで、ババアは姿を現した。


「お待ちになりましたか?」


 聞く必要があるのだろうか?

 このババアも、俺達にはやる事がないことくらいわかっているだろう。


「ああ、待ったよ」

「時間通りですが?」


 腹が立つ物言いだ。

 これは、やはりわざとだろう。

 それなら、怒る必要はない。


「……もう少し早く来い」


 これだけ言えばいいだろう。

 こんな無意味なやり取りをする気はない。


「それでは行くぞ」


 さっさと魔法の国の中に入らなければ。

 内側から、少しづつ結界魔法を破る方法を見つければいい。


「お待ちください」


 呼び止められて、大変不快になる。

 話ならば、歩きながらでいいだろう。


「今日は、お二人でどうですか?」


 なるほど、確かにここでしかできない話だ。

 俺とそっくりな魔族がいるのはバレバレだったのだろう。

 だが、それなら、このババアが俺を騙しているのもバレバレだ。

 

 なんのためにこんな事を言い出したのかわからないが、俺と弟が一緒に魔法の国に入ることはない。

 片方が死んだら、片方にはわかるのだ。

 つまり、俺が魔法の国で死んだら、すぐに弟は魔族領に帰るのだ。

 だから、必ず片方は外にいなければいけない。


「いいや。俺だけで行く」


 だから、そう答えた。

 そして、"にべもなく"歩き出す。

 そんな俺に、ババアは黙って着いてきた。

 何を企んでいたのかわからないが、引き下がってこないところを見ると、たいしたことではなかったのだろう。



     ♦



 ババアは歩きながら、やたらと話しかけてくる。


「あなたは何番なのですか?」


 それも、全く聞く必要のない話が多い。

 こんなこと、このババアには予想はつくだろう。M0285番かM0287番の2択だ。

 俺が"兄"なので、先に作られたM0285番なのだが。


「M0285番だ」


 番号なんて知っても人間にはどうでもいいだろう。

 それとも、番号で細かく記録してるのだろうか?

 だが、大戦で失った魔族は多いし、最後の番号が俺達にも何番かわからない。

 記録したってしょうがないだろう。

 人間にとっては全く無意味な数値だ。


 こういう意味のない質問の中にたまに、意味のある質問を混ぜてくる。

 先ほどは、アジェーレの戦況を聞いてきた。

 こうやって、話を聞きだそうとしているのだろうか?

 もちろん俺は答えないし、答えるやつがいるわけないだろう?

 いないよな?



     ♦



 そうして、"結界を作り出す装置"がある部屋まで来た。

 中に入ると、すぐに異常に気づく。

 部屋の隅で、人間の子供が座り込んでいるのだ。


 どう反応するべきか悩んでいると、ババアは俺を置いて、その少女の方へと向かってしまう。

 そして、ババアはその少女と普通に会話をしだした。

 内容は大したことではない。

 だが、俺を放って話すようなことでもないだろう。


「おい!なんの茶番だ?」


 止めないと、いつまでも続きそうだから、怒気を含んだ声を出す。


「ほほほ、そう怒らないでくださいまし」


 相変わらずババアは煽って来る。


「そもそも、そいつは誰なんだ?」


 誰かは知らないが、どう考えたって、この部屋にいるのはおかしいだろう。

 ババアが開錠したのも見た。


「あの……えっと……アミュス・パメルです。よろしくお願いします」


 おちょくっているのだろうか?

 今、そう言う風に自己紹介するのはおかしいだろう?


「ふざけてるのか?貴様らは!」


 俺を怒らせる作戦なのかもしれない。

 それなら、まんまとその作戦に俺はハマってしまっている。

 見事なものだよ。


「いいえ、ふざけてなどいませんよ」


 いいや、ふざけている。


「先ほど言ったでしょう。この子はアミュス学園長です。この学園の新しい学園長ですよ」


 そんなはずはないだろう。

 どう見ても"子供"である。

 "子供のように見える大人"なのかもしれないが。

 だとしても、いきなりその知能が低そうな生き物を学園長だと言われても信じられない。


「そして、あなた達――魔族を滅ぼす者ですよ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はババアを殺しにかかった。

 明確に、殺意を出してきたからである。

 すぐに戦闘になると、経験から感じたからでもある。


 だが、その一撃も、ババアの貼った結界魔法に止められてしまう。

 不意打ちにはならなかったにしても、いくらなんでも簡単に止め過ぎである。


「ほほほ、随分と判断が早いですね」


 当たり前だ。


「最初から殺す機会を窺っていた!」


 というよりは、いつでも殺せるようにしていた。

 ……はずだった。

 こんなババアの首ごとき簡単に落とせるはずだったのだ。


 膨大な魔力を感知する。

 その方向を向くと、先ほどの少女が魔法陣を構えていた。


 そして、その魔法陣から、水の魔法が放たれる。

 水があふれ出し、俺に襲い掛かってきる。

 俺は、なんとかそれを避けたのだが――。

 

 その避けた先で、ババアが素手で俺に殴りかかってきたのだ。


 そして、俺は為すすべなく、ババアに殴られて"吹き飛ばされた"。

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