ベズンその4
もう3度目になる。
それは、魔王様の元に報告に行かせた魔族が狩られた回数だ。
複数人で行かせたり、人間に紛れ込ませたりと工夫はした。
しかし、全員殺されたのだ。
しかも、何故かわざわざ俺達に見つかりやすいように。
だが、あのババアというか、魔法の国の仕業とは考えにくい。
それは、別にあのババアを信用しているわけではない。
相変わらず、死体には魔法の痕跡がない。
もしかしたら、わざわざ死体を残していくのは、魔法の国と無関係だと主張しているのかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいいのだ。
これでついに魔法の国に残っているのは、俺と弟だけとなってしまった。
それは別に構わない。
それで困るのなら、もっと部下を丁寧に扱う。
元々、任務には俺と弟さえいればいいと思っているのだ。
「ねえ、兄ちゃんどうするの?」
弟が暇そうに話しかけてくる。
無理もないだろう。俺だって退屈だ。
弟を魔法の国に行かせて、帰ってきてから、もう3日が経っていた。
それからは何もしていない。
何もしなかったことに理由はない。
ただ、急ぐ必要がないだけだ。
そして、俺達には選択肢が二つある。
一つは。このまま、あのババアと交渉を続けて、魔法の国の結界を破る方法を探る。
もう一つは。今ある情報を、俺達が持って帰ることだ。
と言っても実質一つなのだがな。
俺達は、数合わせの、木偶の新しい魔族共とは違う。
だから、魔王領に戻るまでに、狩られるという事はない。
だが、帰れないだろう。
ここまでに得た情報はなんだ?
魔法の国の長が、罠を仕掛けてきているかもしれない。
伝達に使おうとした魔族が狩られている。
これだけだ。
誰でも想像がつく内容だ。
ババアから聞いた話も、どこまで本当かわからないしな。
こんなことを報告しには帰れない。
ならば結局、あのババアに付き合うしかないのだ。
あのババアが国を裏切っているとは思えないが、出し抜く方法を考えるのが、俺の役割と言うわけだ。
あの結界がある以上、受け身にならざる負えないのは、やはり非常に厄介だ。
ここが前線になる前には破壊するべきだろう。
「とりあえず、またババアを呼び出すか」
「えー!もう帰りたい!」
それは俺も同じだ。
「そうぼやくな。暴れる時はいつか来る」
魔王軍が破れて、再起の為に俺達の我慢して来た期間は、いったい何十年、何百年だっただろう。
それに比べれば、些細なものである。
そんなやり取りをしていると、"鳥"がこっちに向かって飛んできた。
あれはババアの遣いの鳥だろう。
随分と間のいい事だ。
鳥は、手紙を置いて去っていった。
「なんて書いてあるの?」
「いつもと同じだな」
またあの場所に来いと、もう一度、魔法の国に入ってほしいと。
そう、書いてある。
「へぇー、僕が行っていい?」
その言葉は、あまりにも変だ。
いくら退屈とはいえ、こんなことを弟が言い出すのはおかしい。
「なにかあるのか?」
「なんかお菓子くれるって言ってたからさ」
ああ、そういうことか。
だが駄目だ。
「いや、俺が行く」
「ええー……まあ、いいや」
弟は俺の言う事には逆らわない。
そうやってやってきたし、そうやってやっていくのだ。