ゼラ・ロマーネルその5
私が呼ぶと、どこからともなく男が一人出て来た。
風貌は、まさにならず者と言う感じだろう。
その顔に見覚えは全くない。
「一応聞かせていただきますけど、どこのどなたですか?」
素直に答えるとは思えないので、一応だ。
「あー……そうだな。しがない盗賊だよ」
意外にも素直に答えられると、どうも調子が狂ってしまう。
だが、盗賊となると見過ごすわけにはいかないだろう。
「まあ、待て待て。この国にいる間は、盗賊は廃業させられてるんだ」
まだ、何もしていないのだが、一体何だと言うのだ。
それならば、最初から名乗らなければいいのに。
「それで、その盗賊さんが何故盗み聞きをしていたのですか?」
全く無関係という事はありえない。
恐らく、アミュスちゃんに、私と魔族がいるところを見させた本人だろう。
「俺には用はないんだけどな。なんか都合が悪いみたいでよ」
本人ではないのかもしれないが、関係者のようだ。
そして、答えているようで、答えていない、言い訳がましいともとれる台詞を吐くものだ。
「あなた以外にも誰かいたのですか?」
あまりそんな感じはしなかったのだけど。
「まあ、そうだな。そいつから伝言だよ。"片方は僕に任せて欲しい"だってよ」
「はぁ、そうですか。どういう意味でしょう?」
意味はわかるが、引っ掛けて見る。
「俺が聞きてえよ」
これは勘だが、嘘をついているようには思えない。
だけどそう言われても、はいそうですかと言うわけにはいかない。
「その方はどのような方ですか?」
恐らく、私たちに感づかれずに魔族を狩っていたのはそいつだろう。
全く、勝手な事をしてくれたものだ。
「ああ、それはそう思うよな。そいつはな、ピエロだよ」
「は?」
馬鹿にしているのだろうか。
今この男を捕まえて、拷問をするべきかもしれない。
「俺はそれ以上知らねえな」
あくまで自分は関係ないと主張したいのだろう。
少し考えるが、どうするべきか答えが出ない。
「それじゃあな。"学園長"さん」
話が終わったからか、男は帰ろうとする。
「あら、話を聞いていなかったのですか?」
男は怪訝な顔をする。
「私はもう学園長ではありませんよ」
「ああ、そうだったな」
そう、素っ気なく言うと、男は歩いてどこかに行ってしまった。
その自然な動作に、捕える気も失せてしまう。
「さて、どうしたものでしょうね」
評価できる部分はある。
私達に全く存在を感じさせずに、魔族を狩る能力だ。そんなことが出来る人間はそうそういない。
心配事もある。
それは新しい魔族を狩れるという話であって、古くて強い魔族を狩れるかはわからない。確実性がない以上、どこの誰とも知らない人間に任せるわけにはいかない。
だけど、2体同時は私とて初めてである。
それに、魔族側も警戒して、選んで出してきた魔族なのだろう。
つまり、こちら側にも確実性はないのだ。
「あまり、良くはないですが。相手に任せてしまいましょうか」
私が空に手を伸ばすと、鳥が止まる。
その鳥に手紙を付けると、鳥は飛び立ったのだった。