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ゼラ・ロマーネルその4

 あれから3日が経った。

 しかし、アミュスちゃんは何もしてこない。

 何を期待しているというわけではないのだけど、ここまで何もされないのも困る。

 次期学園長として、何かをしてくれないかと期待していたのだけど。

 私を叱るくらいの事をしてくれても構わないのだ。


 ただ、昔から何かと迷う性格だった。

 少し手助けくらいしてあげようと思う。


 こんな私は大変甘いのだろう。

 でも、甘くもなってしまうのだ。お婆ちゃんだから。


 ちょうど近くには、アミュスちゃんがいる。

 というか、自然とアミュスちゃんの近くに行ってしまうのだろう。


 近づいてみたが、なにか考え込んでいるようだ。


「アミュス先生」


 反応がない。


「アミュス先生」


 反応がない。


「アミュス先生!」

「え?」


 少し大きい声で呼ぶと、やっと反応が返って来た。


「どうしましたか?悩み事ですか?」


 あまりにも白々しい言い方だろうか?

 だけど、アミュスちゃんのことだから気にしないだろう。


「そんなことは……」


 返事は少し想像と違っていた。

 もっと素直に返してくると思ったのだけど。


「そ、そうですか。ですが、少し街に行きませんか?気分転換になるかもしれませんよ」


 やはり、わざとらしいだろうか。


「ええ!?」


 この反応は予想通りだ。

 だけど断られない自信はある。


「ええと……じゃあ行きましょう」


 やはり断られなかった。

 


     ♦



 アミュスちゃんと出かけるのは久しぶりだ。

 そして、最後になるかもしれない。

 これから、アミュスちゃんには忙しい毎日が待っているのだから。


 勝手に過酷な任を渡すことに、負い目は感じる。

 だけど、いつまでも私がやるわけにもいかないし、誰でもいいというわけではないのだ。

 特に今、この時代では。


 だから、せっかくなので楽しむことにする。

 学園に植える花を選んだり、アミュスちゃんに服を着せたり、魔道具を見たり、魔法書を選んだり、久しぶりにゆっくりと過ごせた気がする。


 そして、最後には私のお気に入りの場所までやってきた。

 国を展望できる公園だ。ここは何十年も前からある。そう、私が子供の頃から。

 国の街並みは変わっても、私が国を見ている気持ちは変わらない。


「私は、この国が好きです!」


 私の後ろで、アミュスちゃんが突然口を開いた。


「思い出がいっぱいあります!例えば卒業式の日に、泣いている私の頭を撫でてくれましたよね」


 そんなこともあった。よく覚えている。でも泣いている理由は、お兄ちゃんが来ないからだったと思う。


「今日行ったところも、この街並みも、みんな好きなんです!」


 アミュスちゃんが私と同じことを考えているのが嬉しい。

 だけど、何を言いたいのかわからないので、少し意地悪をしてしまおう。


「それで?なんなのですか?」


 振り向くと、アミュスちゃんが顔を赤くしている。

 興奮しているのだろう。


「だから、えっと……ゼラ学園長も、この国が好きなんですよ!」


 それはそうだけど、それは私が言う台詞だろう。


「ほほほ。なるほど、そうですか」


 つまり、アミュスちゃんは私の事を説得しようとしているのだ。

 でも、それもいいだろう。話し合いは大事だ。


「もう!ちゃんと聞いてください!」


 アミュスちゃんは手をぶんぶんと振る。


「ええ、聞いてますよ」


 そろそろいいかもしれない。


「少し意地悪し過ぎましたね。ええ、私はこの国が好きですよ」

「本当ですか?」

「もちろん本当です。私がこの国に何十年住んでいると思っているのですか?」


 生まれも育ちも魔法の国である。


「えっと……100年くらい?」


 私はそこまで熟練の老婆に見えるのだろうか?

 確かに、アミュスちゃんが子供の頃から私はババアだっただろう。

 だけど少し酷いと思う。


「ほほほ、そんなにお婆ちゃんではありませんよ」


 別に怒ってはいない。


「でも、それなら、なんで……」


 国を裏切ったのかと言いたいのだろう。

 だけど、それには理由がある。

 少し回りくどいが、順を追って話そう。


「それよりもアミュス先生。こないだの話ですが……」


 まずはここからだ。


「アミュス先生が学園長になるという話です」

「あっ……」


 間違いなく、忘れていたのだろう。


「あの……やっぱり私辞退したいのですが……」


 そう言うとおもっていた。

 私も別に急ぐ必要はないと思っていた。

 だけどアミュスちゃんには、いつかは学園長になってもらわなければいけないのだ。


「それはできません」

「ええ!?なんでですか?」

「もう決まったことだからです」


 アミュスちゃんは押しに弱い。

 もはや決まったことにしてしまえば、押し切れるだろう。


「こ、困ります!」

「それで、これは話の続きなのですが……」


 そして、もう一押しだ。


「アミュス学園長には最初の仕事として、私と一緒に魔族を倒してもらいます」


 アミュスちゃんはポカンとしている。


「倒すですか?」


 だけど返事は返って来た。


「ええ、もちろん。私が彼らを、この国に引き入れていたのには理由があります。ですが、それはもういいのです」


 その理由は別に難しい事では……


「魔族を倒すですか?」


 ……少し効きすぎてしまったようだ。


「アミュス学園長。戻って来てください」


 アミュスちゃんの肩を掴んで、ゆすぶって現実に引き戻す。


「はっ!」


 よかった。戻ってきたようだ。


「え?なんでそうなるんですか!?」


 凄く普通の質問だ。


「それが学園長の仕事だからです」


 正確には、この国の実権を握る学園長の仕事だ。


「ええと、どうやってですか?」

「それはもちろん戦ってですよ」


 方法は色々あるだろう。

 例えば"罠にかけたり"。


「ええ!無理ですよ!」


 確かに魔族は強い。

 それも、"後期型"が相手だ。


「アミュス学園長なら大丈夫ですよ」


 慰めでも、気休めでもない。これは本心だ。

 

「ええ……」


 やはりと言うべきか、アミュスちゃんはもう学園長であることを受け入れている。

 いや、頭に入ってないだけかもしれないけど。


「それと、明日ですから。準備をしといてくださいね」


 本当はいつでもいいのだけど、更に畳みかけてしまおうと思う。

 

「明日?何が明日なんですか?」


 アミュスちゃんは怯えているような仕草をする。


「もちろん魔族と戦うのですよ」

「え?」


 やはり、理解していない顔をしている。

 だけど、好都合だろう。


「今日はちゃんとよく寝るのですよ」


 このまま押し切ってしまえそうだから。


「それでは、一緒に帰りましょうか……」


 そして、私がアミュスちゃんを学園に連れて帰れば終わり。

 その予定だった。


「と言いたいのですが、私はやることが出来たので、先に帰っていてください」

「え?は、はい」


 アミュスちゃんは、まだ混乱しているようだ。

 私が背中を押してあげると、アミュスちゃんはおぼつかない足取りで、帰り道を歩いて行く。


 上手くいったのだろうけど、大丈夫だろうか?色々と。


「さて……どなたですか?盗み聞きとは感心しませんね」

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