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アミュス・パメルその4

 あの日から3日が経った。

 どうする?と聞かれた私だけど、何もしていない。

 だって、どうすればいいのかわからないから。

 ゼラ学園長を見ていても、いつもと変わった様子はない。

 いつも通り、みんなの優しいお婆ちゃんなのだ。


「先生」


 何かの間違いだとは思いたいのだけど、私は見てしまったのだし、あれを間違いで済ますわけにはいかない。


「……ス先生」


 だからと言って、本当にどうすればいいと言うのだろう。

 お兄ちゃんがいれば、答えを出してくれるのになぁ……。


「アミュス先生!」

「え?」


 大きい声が耳元で聞こえて、私は我に返った。

 その声の主は、ゼラ学園長である。


「どうしましたか?悩み事ですか?」


 その悩みの種はゼラ学園長だけど、そんな事は言えない。


「そんなことは……」


 なんだかゼラ学園長は"困ったような"顔をしている。

 困っているのは私なのに。


「そ、そうですか。ですが、少し街に行きませんか?気分転換になるかもしれませんよ」

「ええ!?」


 なんだか急なお誘いだ。

 先生になってから、こんな風にゼラ学園長に誘われた事なんてなかったのに。

 なんで、こんな時に誘ってきたのだろう。


「ええと……じゃあ行きましょう」


 とても迷ったけど、そう答えた。

  


     ♦



 子供の頃は、ゼラ学園長と出かけたことは何回かあった。

 大人になった今でも、その頃と同じような店に行ったのだ。

 お花屋さんや、服屋さん。それに魔道具屋とか、魔法書店。

 まるで子供の頃に戻ったようだ。


 そして最後に、街を展望できる公園に来た。


 辺りには人気がなく、ゼラ学園長は黙って街並みを眺めている。

 私は意を決して話し出した。


「私は、この国が好きです!」


 ゼラ学園長の顔は見えないから、どんな顔をしているかわからない。

 だけど、構わず続ける。


「思い出がいっぱいあります!例えば卒業式の日に、泣いている私の頭を撫でてくれましたよね」


 思い出の大半は、お兄ちゃんとのことだけど、今言う必要はないだろう。


 ゼラ学園長は何も言わない。


「今日行ったところも、この街並みも、みんな好きなんです!」


 ええと、私は何がいいたいのかわからない。


「それで?なんなのですか?」


 ゼラ学園長がこちらを振り向いた。

 ニコニコとしている。


「だから、えっと……ゼラ学園長も、この国が好きなんですよ!」


 本当に私は何を言っているのだろう。

 ゼラ学園長も目を"パチクリ"としている。


「ほほほ。なるほど、そうですか」


 なんだろう。何が可笑しいのだろうか?

 私は真面目なのに。


「もう!ちゃんと聞いてください!」

「ええ、聞いてますよ」


 ゼラ学園長は私に近づいてきて――頭を撫でて来た。


「少し意地悪し過ぎましたね。ええ、私はこの国が好きですよ」

「本当ですか?」

「もちろん本当です。私がこの国に何十年住んでいると思っているのですか?」

「えっと……100年くらい?」


 言ってからそれはないだろう、と自分で思った。


「ほほほ、そんなにお婆ちゃんではありませんよ」


 やはり、怒られてしまった。


「でも、それなら、なんで……」


 魔族と、と言おうとしたけど遮られてしまった。


「それよりもアミュス先生。こないだの話ですが……」


 急になんのことだろう。


「アミュス先生が学園長になるという話です」

「あっ……」


 すっかり忘れていた。

 でも、なんでその話を今するのだろう。


「あの……やっぱり私辞退したいのですが……」


 私には学園長になる自信なんてないのだ。


「それはできません」

「ええ!?なんでですか?」

「もう決まったことだからです」


 私がやりたくないのに。


「こ、困ります!」

「それで、これは話の続きなのですが……」


 私の意見は聞き入れてもらえないらしい。


「アミュス学園長には最初の仕事として、私と一緒に魔族を倒してもらいます」


 もう私の名前の横に、学園長と言う称号がついているし、それに魔族を……


「倒すですか?」


 何を言っているのだろうか。


「ええ、もちろん。私が彼"ら"を、この国に引き入れていたのには理由があります。ですが、それはもういいのです」

「魔族を倒すですか?」


 私は繰り返す。


「アミュス学園長。戻って来てください」


 ゼラ学園長が私をゆすぶる。


「はっ!」


 私は正気に戻った。


「え?なんでそうなるんですか!?」

「それが学園長の仕事だからです」


 そういうものなのだろうか?

 いや、学園長と言うのは、学園を統括するだけだと思う。


「ええと、どうやってですか?」

「それはもちろん戦ってですよ」

「ええ!無理ですよ!」


 魔族と言うのは、ものすごく強いのだ。


「アミュス学園長なら大丈夫ですよ」

「ええ……」


 そう言われても、私は魔族と戦ったことすらない。


「それと、明日ですから。準備をしといてくださいね」

「明日?何が明日なんですか?」


 何かはわからないが、急な事だ。


「もちろん魔族と戦うのですよ」

「え?」


 もう何が来ても驚かないと思っていたのに、不意を突かれた。


「今日はちゃんとよく寝るのですよ」


 そんな軽い風に言われても困ってしまう。

 遠足じゃないのだから。


「それでは、一緒に帰りましょうか……と言いたいのですが、私はやることが出来たので、先に帰っていてください」

「え?は、はい」


 それから言われるままに学園へと帰ったのだけど、どうやって帰ったかはわからない。

  


     ♦



 夜になり、窓を開けて、空を見上げる。


「お兄ちゃん。今度こそとんでもないことになりました」


 気付いたら学園長になっていて、気付いたら魔族を倒すことになっていた。

 なんでこんな話になったのかわからない。


 急すぎると思ったけど、ゼラ学園長の中では急ではなかったのかもしれない。

 最初から決まっていたような口ぶりだった。

 それでも私にとっては急である。


「私はどうしたらいいのでしょう。お兄ちゃん」


 しばらく空を眺めた後、窓を閉めようと思ってふと気が付いたのだけど。

 今日は、紙は飛んでこなかった。

 そもそも、ここ数日は飛んできていない。

 誰が投げてきているのかわからないし、別に待っているわけではないが、結局窓を開けたまま、その場を離れる。


 明日が来なければいいのに。

 そう思いながらベッドに入った。

 ぐっすり眠るようにと言われたけど、眠れるわけがない。

 そう思いながら私は目を瞑った。


「ぐぅ……」

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