アミュス・パメルその3
いつも通り授業を済ました私は、ある場所に向かっていた。
それはもちろん、昨日の夜に投げ入れられた紙に書いてあった場所だ。
昨日もそうだけど、紙の内容を信じたわけではない。
念のため、そう念のためだ。
昨日も同じことを考えていた気もするけど、気のせいだ。
しかし、とても雑で、わかりづらい地図だ。
それでも場所はわかるけど。
私たち学園の教師なら、みんな知っている場所だから。
あまり、入らない様に言われている場所だ。
学園長の部屋や、副学園長の部屋がある。所謂偉い人達の部屋がある場所だから。
「あれ?」
立ち入り禁止の標識が立っている。
いつもはこんなもの立っていないのに。
「どうしよう……」
怪しいと言えば怪しい。
だけど、わざわざこの標識を超える程だろうか?
「ええい!」
でも、どうしても気になってしまうのだ。
こんなモヤモヤした気持ちのままでいるよりは、間違っていたときに、少し怒られる方がいいだろう。
「でも、どこだろう?」
何度か来たこと自体はあるので、迷うという事はない。
だけど、この雑な地図では、細かい場所まではわからないのだ。
とりあえず、学園長室に行ってみようか。
♦
迷った。
なんでこう、無駄に道が入り組んでいるのだろうか?
迷ったせいで、もう紙に書かれた時間は過ぎてしまっている。
「ど、どうしよう……」
とりあえず最初の場所まで戻ろう。そう思った時だった。
向かいから誰かやってきたのだ。
「え、えっと」
私はとりあえず通路に飛び込む。
ギリギリ見つからなかったはずだ。
息を殺して潜む私の耳に、そのやって来た者達の声が聞こえてくる。
「少し、よろしいですか?」
片方の声はよく聞く声である。
間違いない、ゼラ学園長だ。
「どういうことだ?」
そして、もう片方の声は、全く聞き覚えのない男の声だった。
その声は近い。
つまり、声の主も近づいてきているという事だ。
それはそうだ。こちらに向かって歩いてきていたのだから。
そうなると、私が咄嗟に隠れた通路の方向に、曲がってくるかもしれない。
しまった。どうしたらいいのだろう。
私が焦っている間に、声も足音も大きくなる。
そして――遠ざかっていった。
通り過ぎたのだ。
ホッと安堵して、胸をなでおろしたのだけど、焦っていて誰と誰かを見そびれた。
私はそっと、通路を覗く。
片方はやはり、ゼラ学園長だった。
だがもう片方は、紫色の服を着た――いや、紫色の服ではなく、紫色の肌なのだ。
それが意味するのはつまり――
学園長と魔族が学園内で仲良く歩いているということだ。
驚いて声が出そうになるのを、口を押えて我慢した。
あの紙を思い出す。
"学園長は裏切っている"。
とても信じられる内容ではなかった。
でも、今度はしっかりと私も目で見てしまったのだ。
この国に入れるはずのない魔族と、ゼラ学園長が、親し気に話しているのを。
私はどうしたらいいのだろう。
悩んでいても、仕方がない。
ひとまず、二人の後を追いかけることにする。
私は子供の頃から、かくれんぼが上手かったのだ。
♦
魔族は、我が物顔で学園を歩いて行き、一つの部屋にたどり着く。
そして中に入ってしまった。
距離を取っていたので、魔族とゼラ学園長が何を喋っていたかはわからなかった。
私はすぐに、その部屋の前に向かった。
なんだか、"グルグル回っていた"ようだけど、この部屋がなにかはわからない。
こんな部屋あっただろうか?
鍵穴はないし、中の音は聞こえない。
不思議な部屋だ。
他の部屋とは明らかに作りが違う。
とはいえ、バレるわけにはいかないのだし、無理矢理破ろうというわけにはいかない。
私からは何もできないのだ。
だから、再び隠れて出てくるのを待つことにした。
二人はすぐに部屋から出て来た。
特に変わった様子はない。
そして再び、歩き出したので、私は再び追いかけだしたのだ。
♦
それからは二人は、来た道を戻って、また部屋に入った。
そしてすぐに、ゼラ学園長だけが出てきたのだ。
そのままゼラ学園長は、どこかに行ってしまった。
魔族は部屋の中だろうか?
私は、部屋に近づく。
先ほどの不思議な部屋とは違い、普通の扉だ。
思い切って開けて見ると、簡単に開いてしまい、私は焦った。
だって中には、魔族がいるかもしれないのだから。
"構える"が、中には誰も居ない。
代わりに部屋には、下へと向かっている階段があった。
私はその階段を慎重に降りていく。
階段の先は、また部屋だ。だけど、やはり誰も居ない。
その部屋の壁には扉があった。この先に、魔族は消えたのだろう。
だけど、この扉はさっきの扉と同じだ。
鍵穴がない、頑丈そうな扉である。
きっと開かないのだろう。
私は諦めて、来た道を戻ることにした。
時間を気にする暇もなかったのだけど、外に出ると、陽が沈みだしていて、もう夕方になっていた。
ゼラ学園長の潔白を証明するはずだったのに、逆に決定的な証拠をつかんでしまった。
ゼラ学園長を信じたいのだけど、もはや言い逃れは出来ない状況だ。
だけど、私はどうしたらいいのだろう。
♦
とりあえず、自分の部屋に戻って来て一息ついていた。
そして、窓を開ける。
今日は空ではなく、下を見た。
暗くて良く見えないが、誰も居ない気がする。
「とても困ったことになってしまったよ。お兄ちゃん」
そう独り言を言った時だった。
紙が降って来て、頭に乗っかった。
今までは下からなのに、今日は上からである。
人をからかっているのだろうか?
今まで通りなら、また"なにか決定的な事"が書いてあるのだろう。
だけど、紙にはこう書いてあった。
"君はどうする?"
それは、私が聞きたいくらいだ。
というかこの文字は、今までと全く違う綺麗な文字だ。
別の人が差し出しているのだろうか?
そもそも誰なのだろう?
書いてあることは、とても、とても大変な事だ。
この事実を、いったいどうやって知ったのだろう。
そもそも、一体なんで私なのだろうか?
私に何を求めているのだろう。




