ベズンその3
「兄ちゃん!大変だよ!」
俺が"考え事"をしていると、弟が騒がしく駆けて来た。
「どうした?」
実を言うと、内容の予想はつく。
だが、一応聞き返した。
「魔王様の元に送った伝令が、死体で見つかったんだよ!」
やはり、予想通りの台詞だ。
簡単というよりは、当然だ。
この国に入ってすぐにこちらの居場所はバレていて、すぐに手紙まで送って来た。
だが、そんな情報は事前になかったのだ。
もちろん毎回、そういうことをやっているとは限らないが、あまりにも手慣れている。
それならば、こちらに情報が届かない様に、伝令を狩っているのは当たり前だろう。
「そうか」
「こっちだよ!」
弟が俺を先導する。
予想通りとはいえ、死体を見に行く理由は"ある"。
それは別に、弔いに行くためではない。
魔族にそんな感情はない。
そもそも予想通りという事は、殺させるために放った伝令ということになる。
部下の生き死ににこだわるなら、そんなことはしないだろう。
「ここだよ!」
ならば何故、わざわざ死体を見に来たかと言うと、死体の状態を見に来たのだ。
だが、部下の魔族の死体を見た俺は、眉を顰めた。
死体は、首を真っ二つに斬り落とされていた。他に傷はない。
それに周囲の木々にも、戦闘の痕跡はない。
まるで、熟練の戦士が一閃で、首だけ斬り落としたかのような死体だ。
その様は、魔法を使われたとは思えなかったのだ。
「もう少し抵抗しろよ!」
そう言って死体を蹴り飛ばす。
こいつが弱いから、瞬殺されたのだ。
後から作られた魔族は、所詮は我々とは違うものなのだろう。
これでは、相手が何者なのかまるでわからない。
それでも、事は進んだのだ。理由が出来たのだ。
「よし、あのババアを呼び出すぞ」
「急にどうしたの兄ちゃん?」
弟は何もわかっていない。
だが、それでいいのだ。
俺達兄妹は、二人で一つなのだから。
考えるのは俺だけでいい。
ババアからは、連絡用の鳥をもらい受けている。
時間を書いて、取りに手紙を送らせた。
間違いなく、あのババアはボロを出すはずだ。
いや、もうすでに出したはずなのだ。
♦
「用件はわかっているな?」
約束通りに来たババアを見て、真っ先に鎌をかけて見る。
当然。嘘を見抜く魔法は発動済みだ。
「何のことでしょうか?」
おかしい……。嘘はついていない。
「とぼけるなよ。魔王様の元に送った、俺達の仲間が死体で見つかった。これはお前たちがやったことだな?」
「ほほほ。全く存じ上げませんわ」
耳障りな笑い方だ。
しかし、やはり嘘はついていない。
「貴様ら以外にいないだろう?」
まさか、"全く関係ない第三者"が、俺達魔族を狩る理由などないだろう。
それに、伝令に出す部下には、人に出くわさない道で、何かに出くわしても戦闘は避けるように命令してある。
「どうしたら信じていただけるのでしょうか?」
駄目だ。わからない。
おかしい。こんなはずではない。
……だが、こちらは急いではいないのだ。一日二日で成果を出す必要はないだろう。
ふと、"思いついた"。
「明日。もう一度、結界の部屋まで連れていけ」
「ええ、構いませんよ」
返しに少し間があった気がするが、断らないのか。普通は断るだろう。
いや、本当にこのババアが国を裏切っているなら、断る理由はないのか?
「そうか。それでは、前回と同じ時間に」
それと、これは言っておかないとな。
「今度は遅れるなよ!」
「ええ、もちろんです」
まるで、友人と少し会って話して帰る。
そんな気軽さで、ババアは魔法の国へと帰って行った。
♦
「ねえ、兄ちゃん。なんであんな約束したの?」
弟は、近くに潜んでいたので、俺の会話が聞こえていたのだろう。
「なんでそんなこと言うんだ?」
「だって、魔法の国には昨日行ったばっかりでしょ?」
まるで、遊びに行った。みたいな言い方だ。
別に遊びに行くわけではないのだが。
「そうだな」
「なんか作戦があるんだね?」
「いいや。ないよ」
「ええ!じゃあなんでまた行くのさ」
「それは――」