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アミュス・パメルその2

 私はいつも通り学校で授業した後に、ゼラ学園長を探していた。

 いつも1日に1回くらいは会うのに、こういう日に限って見つけられないのだ。

 この広い学園で、人ひとりを探すのはとても大変だ。

 

 別に、あの手紙の内容を信じたわけではない。

 あの優しい学園長に限って、この国を裏切っているなんて言う事はあり得ないだろう。

 だけど、気にするなと言う方が無理があるだろう。

 ただの悪戯だとは思うんだけど……。

 

 私は"パタパタ"と走り回る。


「どうしたのですか?アミュス先生」


 そんな私に話しかけてきた人がいた。

 ああ、マズい。ダンレズ副学園長だ。

 彼はとても厳格なのだ。


「あ、その……ゼラ学園長を探していまして……」

「何の用かはわかりませんが、そんなに急ぐほどなのですか?」


 副学園長は悪い人ではない。

 ただ、少し口うるさいのだ。


「それは、そうではないのですけど……」

「それでしたら、静かにお願いしますよ。もう、子供ではないのですから」


 彼も副学園長らしく高齢だ。

 つまり、私を子供の時から知っているという事になる。

 だからいつも、子供ではないと怒られるのだけど……そう言われると、何も言い返せないのだ。


「すいません」


 私は素直に謝るしかなかった。


「それでゼラ学園長ですが、中央の庭で花の手入れをしていましたよ。というか探し回っていたのでしたら、どこかの窓から見えるでしょう。気が付かなかったのですか?」

「ええ!?」


 全く気が付かなかった。

 そもそも、窓の外なんて見もしなかった。


「はぁ……あなたは昔からそうですね。頭はいいのにどこか抜けているというか……そもそもですね――」


 ああ、駄目だこれは。長くなりそうである。


「あ!ありがとうございました!」


 私は逃げ出した。

 もちろん走ったりはしない。早足で庭へと向かう。

 ダンレズ副学園長の方は見もしないが、きっと"やれやれ"という仕草をしているのだろう。

 お説教は後で聞くことにしよう。



     ♦



 すれ違いにだけはならないで欲しいと、祈りながら庭まで来たのだけど、祈りが通じたのか、ゼラ学園長はまだ庭で花の手入れをしていた。


「あら?アミュス先生。どうなさったのですか?」

「えっと……あの……」


 私は言葉に詰まってしまう。

 "しまった"、と思う。

 会ってからどうしようか考えていなかったのだ。

 まさか直接、国を裏切ってますか?なんて聞けない。

 私が黙っていると、ゼラ学園長が口を開いた。


「……いい機会かもしれませんね」


 何の事だろう。


「ちょうど誰も居ませんし」


 その台詞は、今の私には不穏に聞こえてしまうのだ。

 誰も居ないと都合がいい話なんてそうそうないだろう。

 まさか、私にも国を裏切るように話すのではないだろうか?


「どうしたのですか?アミュス先生?」

「え、うええ?」


 変な声が出てしまった。

 心を見透かされたのだろうか?

 もしかしたら、そういう魔法もあるのかもしれない。


「はぁ……本当に大丈夫でしょうか?心配でなりません。ほら、そんな変な顔をしないで」


 ゼラ学園長が、私の顔を触る。

 そんなに変な顔をしているだろうか?


「アミュス先生。良いですか?」

「はい!」


 良くはないけど、なんのことだろう。


「まず、次の学園長が誰になるか知っていますか?」


 なんだろう。

 思ってもいない話が急に出て来た。


「えっと……ダンレズ副学園長ですよね?」


 そういう話は聞いたことがある。


「違います」

「ええ?それじゃあ誰なんですか?」


 副学園長以上に相応しい人なんていないと思う。


「あなたです」


 あなた、あなたさんかぁ。

 そんな人いたかなぁ?


「アミュスさん?」

「はい!」

「大丈夫ですか?わかっていますか?」

「はい!わかっています!」

「わかっていないようですね……」


 そんなことはない。

 次の学園長は"あなた"さんだ。

 でも、なんでこんな話を私にするのだろう?


「次の学園長は、アミュス・パメルさんですよ」


 それは私だ。

 ここまで来ると私も理解して来た。


「もしかして、次の学園長は私と言っていますか?」

「最初からそう言ってます」


 言ってないと思う。


「ええと、どこのですか?とても小さい学園の?」

「もちろんここのですよ。この学園のですよ」


 当然そうだろう。


「無理ですよ!ダンレズ副学園長はどうするですか!」

「彼にはそのまま副学園長を続けてもらいます。もう話は通してあります」


 それは、おかしい。

 それに、


「ゼラ学園長はどうするのですか?」


 これは、とても大事な事だ


「アミュス先生。落ち着いて聞きなさい。今すぐにという話ではないのですよ」

「あ……」


 それもそうか。


「ただ、例えば"私がいなくなった時"に、あなたが学園長になるつもりでいてください」


 とても含みのある言い方だと思う。

 まるで、いなくなる可能性があるような話し方だ。


「なんで私なんですか?」


 私はただの先生だ。それに若い。

 普通に考えれば、ダンレズ副学園長が次の学園長のはずだ。


「そもそも、あなたは勘違いをしてそうですね」


 なんのだろう?


「ここは魔法の国です。そして、ここは魔法の国の中心ともいえる場所です」


 中心と言うのは、物理的な話ではないのだろう。


「だから、元々この学園の学園長は、一番魔法が上手い人がなるものなのですよ。年齢は関係ありません」


 それはつまり、私が一番魔法が上手いと言いたいのだろう。

 そんなことないと思うのだけど。


「あなたは今、"私が一番魔法が上手いわけではない"と考えていそうですね」

「うっ……」


 図星だ。


「ですが、もうこれは決まったことですので」


 覆せないと言いたいのだろう。

 そう言われても、私は困るのだ。

 突然の事で、戸惑うことしかできないのだ。


「話はこれだけです。まだ先の……話ですが、そのつもりでいてくださいね」


 そう言うと、ゼラ学園長は去って行ってしまった。

 私はここに来た意味も忘れて、立ち尽くしてしまうのだった。



     ♦



 夜になり、部屋の窓を開ける。

 今日は大変な事を聞かされた一日だった。

 いや、昨日からか。


 そういえば、元々は学園長が国を裏切っているという紙が投げ入れられたから、学園長を探していたのだった。

 すっかり忘れていた。

 私が学園長候補だなんて話の前では、そんな悪戯は大したことではないのだろう。


「どうしたらいいの?お兄ちゃん」


 夜空に向かって、そう呟いたところで、返事が返ってくるわけがない。


 しかしその代わりに、"また"だ。

 また、折られた紙が部屋の中に飛んできたのだ。


 すっかり油断をしていた。

 まさか二日続けて、こんな悪戯をされるなんて思いもしなかった。

 急いで外を見るが、この紙を投げ入れた人物は暗くてよくわからない。


 中を見ずに、捨てようか迷ったが、一応紙を開くことにした。

 

 その中には、時間と場所が書かれていた。

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