ベルテッダ・シュクラその1
俺は盗賊だ。
目的があって盗みをするわけではない。生きるために盗みをしてきたのだ。
そして、これからも生きるために盗みをしていくのだ。
そんな俺が魔法の国に来たら、何をするかって言うと、答えは一つだろう。
盗みをするんだよ。
まあ、魔法の国でなくても、どこでも盗みはするんだけどな。
俺は今、この魔法の国で一番大きい学園の中にいる。
この国に来てから、この学園を狙っていたのだ。
見て、聞いて、感じて。そうやって調査を進めて来た。
はっきり言って、この学園の警備は驚くほど"手薄"だった。
だが、それは外から見たら、だ。
俺は魔法のことなんてなんもわからねえ。
もしかしたら、侵入者を阻む魔法なんかがあるかもしれない。
魔法の国と言うくらいだから、魔法は警戒しないといけないだろう。
ただ、そんなものがあったとしても、俺にはわからないのが問題なのだが。
それで今、なんでこの学園に入ってるかと言うと、今日は急に何故だか警備がいなくなったからである。
せっかくの機会と思い、中に入ったのだが、今のところはなんの問題もない。
もっとこう……足元に魔法陣が現れて火を吹く。そんな罠を想像していたのだが、そんなものはなかった。
まあ、俺も百戦錬磨の盗賊だ。そうなったとしても、"ひらり"と避けてやるつもちで、この学園に盗みに入ってやったわけだが。
罠がないのはとても幸運だった。
しかし困ったことがある。
お宝が見当たらない。本ばかりである。
本にも価値があるのだろうけど、俺にはさっぱりわからないのだ。
もっとパッと見て、凄そうな魔道具があると思ったんだけどよ。
と言っても、まだ探ってない部屋はたくさんあるんだ。
それに人気が全くないので、ゆっくりと。とは言わないが、急いで探して回れば金目の物くらいはあるだろう。ここまでは、本しかないけどな。
そう思ったのだが、誰かの会話が俺の耳に入って来る。
近くの部屋からだろう。
ただの興味本位だが、少し聞いて行くことにするか。
「その命が惜しいから、私は国をあなた方に売るのですけど」
「老い先短いババアがよく言うよ」
「ババアだからこそ、長い人生を背負っているのですよ。それを終わらせたくないだけです」
軽い気持ちで聞きに行った会話は、余りにも不穏だった。
誰と誰が話しているのかはわからない。
だけど、国を売る。それは、この国の話だろうか?
「こちらです」
誰かはわからないが、部屋を出てきそうだ。見つからないようにしないといけない。
それに、顔も拝んでやろう。
とりあえず俺は、見つからない様に、コソコソと隠れたのだ。
そして、部屋から出て来た、その人物の顔を見て驚いた。
この学園の学園長であるゼラ、その人である。
調査をした時に、しっかりと顔を覚えていたからわかる。
そして更に、続いて出て来た相手を見て驚いたのだ。
それは紫色の肌をした、人でない生き物。
魔族であった。
もちろんこの魔族は誰かはわからない。
つまり、この魔法の国の権力者であるゼラが、魔族を相手に"国を売る"と言っているのだ。
おかしいと思ったのだ。
人がいないのは、わざわざ人払いをしたのだろう。
つまり、誰にも聞かせられないような話をしているという事だ。
更に、この国には絶対に入れないはずの、魔族がここにいるのが証拠だ。
お宝を頂戴しに入ったはずが、とんでもない場面に出くわしてしまったものだ。
そんな俺の耳に、とんでもない魔族の台詞が聞こえてきた。
「そうか?今、人がいた気がするぞ?」
まずい。魔族にバレている。
その言葉を聞いた瞬間、俺はすぐに"逃げ出そうとした"のだ。
だが、俺の目の前に立ちふさがった奴がいたのだ。
「っ…………!!!???」
これでもかというほど驚いたが、声だけは出さないようにした。
見つかった?そんなことを考えることもなかった。
何故なら、俺を阻んだそいつはとても変な仮面――ピエロの仮面をつけていたのだから。