ベズンその1
俺にその"命令"が下ったのは十数日前だ。
我々魔族には今、4つの障害となる国がある。
1つ目はエイレスト帝国だ。ここは傭兵国家だ。しかし、この国に関しては、実はよくわからない。我々魔族の侵攻が始まってから出来上がった国家だ。
急増の国であるし、人間領では一番奥にあるので、そこまで危険視していなかった。
だが、どこに行っても、エイレスト帝国出身の傭兵に阻まれるのだ。
だが、人間領の奥にあるので、我々が入り込むのは難しいのだ。
2つ目はクメルシス王国だ。ここは教会都市と言われている。
人間領の、最前線を支えている国の一つで。
宗教を信じた信徒たちが、死兵のように襲い掛かってくるため、我々は攻略できないでいる。
3つ目はアジェーレ王国だ。ここは軍事国家である。
この国も最前線だ。
第1軍団が当たっているが、何年も戦い続けている、不落の国である。
囲めば落ちると思われていたのだが、最近では何故だか敵の士気が上がり、更なる苦戦を強いられているようだ。
4つ目はメグスメナ王国だ。ここは魔法の国と言われている。
ここは最前線ではない。
この国から送られる魔法使いに、やはり苦戦させられているのだ。
そして、俺にはこの魔法の国の調査という命令が下ったのだ。
いや、俺にはではない。"俺達"にはだ。
「ねえねえ兄ちゃん。どうしたの黙って?」
俺の事を兄ちゃんと呼ぶこいつの顔は、俺と瓜二つだ。
俺の弟のペスンだ
もちろん本当の弟ではない。
魔族にはそんなものはないのだから。
「いや……」
少し情報を頭の中で整理していただけだ。
「で、どうするの?」
俺達の目の前には、魔法の国がある。
命令を聞いてから、少数の部下を連れて、人間の商人に成りすましてここまで来たのだ。
だが、
「どうしたものだろうか」
俺も困っている。
そもそも魔法の国には"魔族は入れない"。
魔族やモンスターは、結界に弾かれてしまう。
それは来る前からわかっていた。
では、何を調査しに来たのか。
それは、ここに送り込まれた魔族が行方不明にななるからだ。
しかし、それ自体は変ではない。正体がバレて、狩られている。それだけのことだろう。
ただ、旧魔族も、もう5体も失踪しているのだ。
恐らく殺されたのだろうが、旧魔族ともあろうものが、そうそう殺され続けるのはおかしい。
そうして"それ"が、調査として俺に巡ってきたわけだ。
俺は、分析に優れた魔族だ。
そう、作られた。
そして、弟は力が強い魔族だ。
そう、作られた。
俺が分析して、弟が敵を倒す。最初から俺達は二人で一組として作られたわけだ。それが、俺と弟の外見が全く同じ理由だし、俺達が互いに兄弟と呼び合ってる理由だ。
ただ、それでも。入れない国の調査をしろと言われても困る。
「ねえ、何か飛んできてるよ?」
弟が指さす方を見ると、確かに鳥が飛んできている。
俺は瞬時に見破る、普通の鳥ではない。魔力を帯びている。
だが、警戒するほどではないだろう。
その鳥は、俺達の近くで止まった。
「足に手紙が挟んであるな」
その手紙を要約すると、
私は魔法の国の学園長ですが、あなた達に寝返りたいです。結界魔法を解く方法を教えるので、その代わりに私の命だけは助けて欲しい。
そう書いてあった。
そして、待ち合わせの場所と時間も。
「怪しくない?」
怪しいどころではない。これを信じる馬鹿がどこにいるのだ。
「だが……」
だからこそ俺が派遣されたというわけだ。
俺は"嘘を見抜ける魔法"を使える。
「乗るしかないだろう」
敵の罠にな。
どうせこのまま、手をこまねいていてもどうしようもないのだから。
「おい!」
俺は部下に呼びかける。
「この手紙を写して、新魔王様の元に届けろ」
「はい!」
そう言い残して、俺は指定された場所へと向かうのだった。
♦
指定された場所は、洞窟の様な穴が空いている場所だった。
外から見る分には、ただの崖に出来ている穴だ。
手紙には一人で来いと書いてあるが、当然弟を待機させてある。
他にやる事もないので、少し早く来たのだが、まさか命乞いをするような必死な奴が、"遅れてきたりはしない"だろう。




