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ベナミス・デミライト・キングその9

 もう魔族はいないのだし、わざわざ奴隷場でやる必要もないのだが、やはり住み慣れている場所がいいだろう。

 だから、皆を"ここ"に集めた。


「みんな!俺達、革命軍で国中を周ったが、もう魔族は全滅していた!グザンだっていない。つまり――」


 一拍、仰々しく溜める。

 なんだか革命軍のリーダーをやっているうちに、こういった"はったり"が上手くなってしまった。


「俺達は解放されたんだ!もう奴隷ではない!」


 皆が騒ぎ出した。

 無理もない。もう何年も奴隷生活を続けていたのだから。


「しかし、皆も薄々感じているだろうが。ここは魔王領だ。敵軍の真ん中である。すぐにここを去らなければならない。よって、明日にはここを発つことにする!」


 皆は不安そうな顔をする。

 そんな顔をされても困る。

 俺だって不安なんだ。


「だが、今日は解放の日だ。宴の準備を始めている。今日だけは英気を養って明日に備えるように!」


 まずは皆の英気を養わなければならない。長い旅になる。今の疲弊した状態ではどうしても旅立てない。

 だから今夜だけはゆっくりと休養させるしかないのだ。

 

 宴が始まると、皆が俺の元にやってくる。

 正直に言うと困る。

 たいしたことはやっていないどころか、俺は"何もやっていない"のだから。


 それでも、俺は皆の指導者の振りをしないといけないのだ。

 どうせそれも、人間領に着くまでの辛抱である。

 人間領に出れたら、革命軍なんて忘れて、"一般人として生きて"いこう。

 そう、魔族の侵攻におびえながらな。

 


     ♦



 宴も夜中遅くまで続けば、皆も疲れて、眠りだす。


 だが俺はと言うと、眠れないでいた。

 それはきっと問題が山積みだからだろう。

 そのことを考えると、眠るどころではないのだ。

 整理してみよう。


 まず、グザンだ。味方の魔族を引き連れて、戻って来ないとも限らない。というか、あのピエロが戻ってきていない。返り討ちに会った可能性が高いのではないだろうか?

 そもそも、あのふざけた仮面をつけたピエロが誰かもわからないが、グザンを倒したのなら戻って来るのではないだろうか?それにしては遅すぎる。

 これが出発を早めたい、第一の理由だ。


 そして、第二の理由は、革命軍の宴が近かったことである。

 これ自体は直接的には関係ない。だが、それはつまり、魔族の視察がそろそろ来るという事である。

 例えグザンが死んでいても、どちらにしろ、すぐにでもここを発たないといけないわけだ。


 また別の問題だが、外はモンスターでいっぱいである。近くの国も魔族に占領されているだろう。

 モンスターや、魔族に見つからないようにしないといけない。

 これは、もはやどうしようもないだろう。天に祈るしかない。


 そして、最後の問題はエニールだ。

 どう見てもエニールは、あのピエロと知り合いである。きっとエニールは、ピエロの帰りを待ちたがるだろう。

 そうなると、ここの連中たちも、出発を渋るかもしれない。

 まあ、これに関しては、"考え"がある。

 

 とまあ、問題はこのくらいだろう。

 色々と考えているうちに、結局眠れないまま、夜が明けてしまった。



     ♦



 だが、これは好都合かもしれない。

 エニールが一番早く起きる。そんな気がするのだ。

 それはいつも通りのことだから。という理由なのだが、今はいつも通りではない。

 だが、やはりエニールは一番早く起きたのだ。


「おはようございます」

「ああ、早起きだなエニール」

「そちらこそ」

「俺は寝てないんだ」


 正確には眠れなかったのだが。


「少しいいですか?」


 俺から切り出そうと思ったのだが、エニールから切り出してきた。


「駄目だな」


 だが、話も聞かずに断った。


「なんでですか?」

「言いたいことはわかるからだ」

「でも、彼がまだ戻ってないんです!あたしたちが解放されたのは、彼のおかげなんですよ!」


 本当にそうだ。それを、みんなに聞かせてやって欲しい。俺を頼らないでくれ。


「わかっている。だが、残酷な事を言うようだが、一晩経って戻って来ないという事は、何かあったという事だ」

「そんなことは……」

「あるんだよエニール。俺達にはもう後がないんだ。もしかしたらグザンが戻ってくるかもしれない。その時どうなるかわからない」


 "この辺りは"、正直な感想だ。

 俺の見立てでは、ピエロはグザンに敗れている。


「だが、な?エニール」


 いつから俺は、こんなもったいぶった喋り方をするようになったのだろう。

 グザンもこんな感じで喋っていたかもしれない。


「俺だって馬鹿じゃあない。道中は危険でいっぱいだ。魔族のいそうなところは避けないといけないし、モンスターに襲われるかもしれない。あのピエロが護衛してくれれば無事にどこかへたどりつけるかもしれない」


 我ながらよく"ペラペラ"と口が回るものである。


「それって?」


 つまり?と言いたいのだろう。


「ああ、数日待とうと思う」


 エニールの顔が一気に明るくなる。


「ありがとう!ベナミスさん!」


 あまりにも輝いている、その顔を直視できずに、俺は顔を背けてしまった。

 きっと俺の顔は今、とても苦々しい顔をしているから。


「とりあえず今日は荷造りとかをしよう。みんなで協力すればすぐに終わるだろう」


 さて、ここからだ。

 "今日中に出発する"準備を始めなければいけない。

 


     ♦



 出発の準備自体は楽なものだ。

 元々馬車はある。

 これは、魔族と人間の前線に送るためのものだ。

 この馬車に食料などを積んでいくだけだ。


「すまん出発時間だが――」


 俺はそれぞれに"同じ指示"を出していく。


「夜にする。夜の方がやはり魔族には見つかりづらいし、モンスターの活動も大人しめだろう」


 そして、ここからが重要だ。


「エニールには絶対に教えるな」


 多くの奴は「何故?」と聞き返してくる。

 それはそうだろう。

 だが、それに対する答えを、俺は持っていないのだ。


「すまんエニールのためなんだ。今は俺を信じてくれ」


 これは演技する必要がない。実際にエニールのためなのだから。

 だが、演技してないからか、大抵の奴はそれで黙ってくれた。


 ついでに、何人かには、エニールを早く寝かせるように、頼んでおいた。

 これで準備は完了だ。

 恨むなよエニール。

 


     ♦



 夜になって、俺達は出発する。

 エニールはよく眠っている。

 ここから大事なのは、運だ。

 だが、実は俺は運には自信があるのだ。

 ここまで、色々あった。本当に色々あった。

 生きて今ここに入れる事。それこそが俺の運の良さを示しているのだから。

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