ベナミス・デミライト・キングその7
「うわああああああああああ!」
俺が毎朝うなされて起きるのには、何個も理由がある。
拷問された時の夢を見たり、みんなを騙していることを責められる夢を見たりする。
それに、革命軍のリーダーなどという、俺には分不相応な役職。
だけど、それ以外に選択肢はなかったのだ。
寿命で死のうとなんて思っていない。
奴隷として力尽きて死ぬまで、みんなを騙し続けるだけだと思っていたんだ。
「おはようございます。ベナミスさん」
「……おはよう」
テントにラエインとダオカンが入って来た。
ああ……ラエインよ。なんでお前はそんなに元気なんだ。
そうか。もうすぐ、革命軍の集まりだからか。
とりあえず顔を洗おうと、ラエインと共にテントを出る。
そうするとエニールが外にいた。
「やあ、エニール」
エニールは元気になったようだ。
別にエニールに特別な思い入れがあるわけではないが、死んだらみんなが悲しむからな。
「ベナミスさん。あの時はありがとうございました」
エニールはそう言うと、去っていった。
俺に礼なんて言われても困る。
感謝をされるような人間じゃあないんだ。
いや、ようなではない。
感謝をされるべきではないのだ。
「じゃあ、またあとでなラエイン」
ダオカンはラエインの事をどう考えているのだろう。
俺と同じで、苦手ではないのだろうか?
宴の時に酔わせて聞き出してみるか。
「俺達も行こうかラエイン」
「はい!」
いつもの日常が始まる。
♦
今日はグザンがやって来た。
エニールに絡んでいるようだ。
俺に用がないのならどうでもいい。
俺は何かあっても、何もする気はない。
そう、なにもしないのだ。
「おい!貴様!何をしている!」
急な怒声に驚いた。
エニールが立ち上がって、どこかを見ている。
最近も同じことがあったような気がする。
あれは、あの時は――。
そう、あの人の幻覚を見たはずだ。
あの――勇者と呼ばれた人間の。
エニールが魔族に鞭で打たれそうになっている。
本物の勇者がいるのなら、エニールを助けに入るのだろう。
だが、勇者はもういないのだ。
勇者はもう"死んだ"のだから。
「は?」
つい、間抜けな声が漏れてしまった。魔族が吹き飛んだからだ。
それはつまり、魔族を殴り飛ばした奴がいるという事だ。
その魔族を殴り飛ばした大馬鹿な奴は、これまたピエロの仮面を被ったふざけた奴だった。
一体だれか見当もつかない。
仮面で顔が見えないが、こないだ見た幻覚に見た目は似ている気がするが……気のせいだろう。
まさかラエインではないよな?と思い、ラエインを探すと、いつの間にかすぐそばまで来ていた。ラエインではないというだけでもホッとする。
「は、反乱だ!」
反乱と言う言葉に過剰に反応してしまう。
もちろん俺は何もやってない。だが、その言葉は俺達にとっては特別な言葉だ。
グザンの方を見ると――俺の方を見ていた。全力で首を振る。
「貴様!何者だ!?」
それは、俺たちも知りたいくらいだ。
だが、この後の結末はわかっている。
「逃げて!」
逃げれるわけがない。
ほら、突き刺された。
俺はもう、どうやってグザンに弁明するか。ということしか考えていなかった。
だが、異変はその時起こった。
信じがたい事に、死んだはずのピエロが生き返ったのだ。
そして、更に信じがたい事に、そのまま魔族を3体蹴り飛ばしてしまった。
「貴様ら!何をしている!殺せ!」
グザンが焦るのも無理はない。
俺だって混乱している。
人間は腹を槍で貫かれたら死ぬものなのだから。
だが、現にこうして、ピエロは動いている。
それどころか今、ピエロに襲い掛かった3体の魔族を――殺してしまった。
あと残っているのはグザンだけである。
それがきっかけになったのか、
「ベナミスさん!僕たちも行きましょう!」
急にラエインの声が耳に入って来た。
何を言っているんだろうこいつは?
「あ、ああ。いや、待てラエイン」
まだ、混乱していたからか、変な返答の仕方をしてしまった。
この状況で、コックの俺に何が出来ると思っているのだろうか?
「誰だかわからんが。命知らずな奴だ。ふざけたお面を被りやがって」
それは俺も思う。
仮面を取って顔を見せて欲しい。
「だんまりか?俺をそこに転がってるゴミ共と同じだと思うなよ?」
喋ったら不都合でもあるのだろうか?
やはり――。
「死ねえええええ」
グザンは有能だが、短気である。
だが、強い。
今度こそ、あのふざけたピエロも終わりだろう。
そう思ったのに、ピエロは逆にグザンを吹き飛ばしてしまった。
それを見て、俺は確信した。
ああ、良かった。あれは違う。あれは"勇者ではない"。
「行きましょうベナミスさん」
どこに?
「いや、待て」
俺は動く気はない。
何があっても、何もしない。
「今立ち上がらないで、いつ立ち上がるんですか!」
立ち上がることは一生ないからいいのだ。
「……」
絶対に動かないからな。
「おーい!」
ダオカンの声がした。
空耳だろう。
こんなところにいるわけがない。
だが確かに、ダオカンは俺達の元にやってきたのだ。
「ダオカン。何故こんなところに……見張りはどうしたんだ?」
「それが変な仮面をつけたやつが急に現れてな。見張りは全部殺しちまいやがった」
「さっきの人ですね!」
こちらと同じというわけだ。
「そうなると、またとない機会じゃあねえか」
なんの?
と言いたいのだが、そんなことは聞けない。
「そう……だな……」
周りから次々に、革命軍の仲間達が集まって来た。
これは……もう……誤魔化せない。
もうどうにでもなれ!
「革命軍の諸君!よく集まってくれた!」
そう言って俺は歩いて行くと、槍を拾った。
そして、最初に殴り飛ばされた魔族の頭に突き立てたのだ。
「革命の時は来たのだ!!」
「革命軍に栄光あれ!」「革命軍に栄光あれ!」「革命軍に栄光あれ!」
皆が激しく盛り上がる中、俺の心は相変わらず冷めたままである。
なんでこうなったのかわからない。
だが、こうなった以上、最後までやり遂げないといけないのだ。
今日が俺の命日になるかもしれない。




