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ラエイン・ノステルその7

 もうすぐ革命軍に入って1か月となる。

 つまり、またあの宴がやってくるという事だ。

 別に革命軍に入った理由は、食べ物のためと言うわけではない。

 だけど、あの楽しさを知ったら、待ち遠しくなるのは仕方がないだろう。


 この1か月僕は頑張った。

 宴の準備に参加した。

 ベナミスさんから剣の稽古も受けている。

 1歩1歩、革命への道を進んでいるんだ。


 エニールの顔が見えた。


「やあ、エニール」


 元気になって本当に良かったと思う。

 鞭に打たれたのが原因で、傷が化膿して、うなされたまま死んでいった人達も多いから。

 なんだかエニールは、"ジトッ"っと僕とベナミスさんを見ている気がする。気のせいだろうか。

 

「ベナミスさん。あの時はありがとうございました」


 何回か聞いた言葉だ。

 見ていたのは、これが言いたかっただけかもしれない。

 ベナミスさんは力持ちだからなあ。


 そう言うと、エニールはナセじいの元へ行った。

 みんな、ナセじいの事は好きだけど、エニールは特別好きなのだろう。

 僕も、親がいなかったら、そうだったのかもしれない。


「じゃあ、またあとでなラエイン」


 ダオカンさんは別の場所で働かされている。

 僕たちが採った野菜なんかを調理する仕事だ。

 こんなに作った野菜を調理して、一体どこに運んでいるのだろうか?


「俺達も行こうかラエイン」

「はい!」


 あと数日の我慢だと思うと、例え辛い作業に向かうとしても、足取りは軽くなるんだ。

 


     ♦


 

 畑仕事をしていると、グザンがやってきた。

 久しぶりに見た気がする。

 

 エニールに何か話しかけている。

 グザンは、見た目は太っていて、頭が悪そうだ。

 だが、意外と頭はかなりいいのだという。ベナミスさんが言っていたから間違いない。

 他の場所でも、奴隷達を拷問しているくせに、前回エニールを鞭打ちしたのも、ちゃんと覚えているのだろう。


 エニールの背中を叩く音が響いた。

 きっと手加減はしているのだろう。

 と言うか本気で叩いたら、人間は"壊れてしまう"のだと思う。

 今は、あれだけで済んだみたいだから、マシだ。


 しかし、今日は時間が経つのが早く感じる。調子がいいという奴なのだと思う。

 このまま何事もなく、あと数日過ぎるのを待つだけだ。

 待つだけなのだ。


「おい!貴様!何をしている!」


 そんな平穏な時間は破られた。

 驚いて、声のした方を見ると、魔族がエニールを怒鳴りつけたようだ。

 そして、当のエニールはと言うと。


「何をしているんだろう」


 どこかそっぽを向いて、立ち尽くしていた。

 このままじゃ、また鞭打ちにされてしまう。

 実際に、魔族は鞭を構えながら、エニールの目の前まで来ていた。

 

 その時だった。

 魔族が吹き飛んだ。

 その原因は、どこからともなく、現れた男が殴り飛ばしたからだ。

 

 そいつは、不思議な仮面を被っていた。あれはピエロの仮面だ。ふざけているのだろうか。

 仮面をしているからわからないが、仲間のうちの誰かだろうか?

 一体どこの誰で、どこから現れたのかわからないけど、とんでもない事をしたことだけは確かだ。


 魔族も含めて、あまりの出来事にあっけにとられている。

 あのグザンでさえも、どこか変な顔をしている。

 僕は無意識のうちに、ベナミスさんの近くまで来ていた。


「は、反乱だ!」


 魔族が叫んだ。

 そう、反乱だ。


「貴様!何者だ!?」


 それは、僕たちも知りたいくらいだ。

 仲間のうちの誰かだったら、どうすればいいのだろうか。

 ベナミスさんの顔を見ると、ただただ驚いている。少なくともベナミスさんにも、あのピエロが誰で、目的がなんなのかわからないのだろう。


「逃げて!」


 エニールが声を上げると、ピエロはエニールの方を見た。

 知り合いなのだろうか?

 そう思った瞬間だった。

 ピエロの体は、魔族に槍で串刺しにされてしまったのだ。


 あれが誰かわからないけど、一体何がしたかったのだろう。

 あんな風に、何も為せずに死ぬのだけは、僕は嫌だ。

 グザンはどうするのだろう。

 連帯責任で、みんな鞭打ちにでもするのだろうか?


 グザンは……。

 なんで?

 なんで、あんな驚いた顔をしているのだろう。

 周囲がざわめきだした。

 どうしたんだ。みんな同じ方向を見ている。


 その視線の中心には、先ほど槍に貫かれたピエロがいた。

 ピエロは自分を貫いた槍を手で持っていた。

 最後の力を振り絞ったのか?

 そう思ったのだけど、魔族はピエロの体から、槍を引き抜けないでいるようだ。

 

 ピエロは槍が刺さったまま前進すると、3人の魔族を蹴り飛ばしたのだ。

 そして、何事もなかったように、体から槍を引き抜くと、2本は捨てて1本だけ手に持ったのだ。


 確かに体は貫かれていたはずなのに。

 いや、確かに体に"穴は空いている"。

 そこから血も流れている。

 でも、平然と立っているどころか……グザンの方へゆっくりと歩き出したのだ。


「貴様ら!何をしている!殺せ!」


 グザンは必死に叫んだ。

 だけど殺せと言うのはおかしいだろう。だって殺したはずなのだから。


 魔族はその命令を聞いて、ピエロへと襲い掛かったのだけど――。

 ピエロは今度はしっかりと攻撃は避けたのだ。

 そして、すれ違いざまに魔族を転がした

 地面に転がった魔族たちに、ピエロはゆっくりと近づくと、3体の魔族の首を落としたのだ。


 もう言い逃れは出来ない。

 明確な反乱だ。

 これは僕たちがやるはずだったことだ。

 でも、どこの誰ともわからない人間が始めてしまった。

 いや、そもそも。あれは人間なのだろうか?


 そんなことはいいんだ。

 僕たちはどうすればいいんだろう。

 ベナミスさんの方を見る。ベナミスさんもただ口を開けて、立ち尽くしているだけだ。

 この場にいるみんなそうだ。

 誰も声も出せないで、ただ立ち尽くして、見ているだけなんだ。しかし、


「ベナミスさん!僕たちも行きましょう!」


 残りはグザンだけである。

 あのピエロが、誰かは知らないし、人間かも怪しいけど、敵ではないのだろう。

 グザンは強いと言っていたけど、協力すれば倒せるかもしれない。


「あ、ああ。いや、待てラエイン」


 なんで止めるんだろう。

 早く行ったほうがいい。

 そう思ったのだけど、もうピエロとグザンは向き合っていた。


「誰だかわからんが。命知らずな奴だ。ふざけたお面を被りやがって」


 ピエロは槍を持っている。対するグザンは鞭を構えていた。


「だんまりか?俺をそこに転がってるゴミ共と同じだと思うなよ?」


 ピエロの方は、何故喋らないのだろう。それとも喋れないのだろうか?


「死ねえええええ」


 グザンが痺れを切らして、先に鞭を振るった。

 だけど、ピエロはそれを躱して、ついでにグザンを蹴り飛ばしたのだ。

 あまりにも見事な動きだ。凄い。

 でも、グザンが吹き飛んだせいで、遠くへと行ってしまって、良く見えない。


「行きましょうベナミスさん」

「いや、待て」


 また、待てだ。

 もう待てるはずはない。


「今立ち上がらないで、いつ立ち上がるんですか!」


 今日を逃したら、二度と立ち上がれないかもしれない。


「……」


 ベナミスさんは黙って、立ち尽くしている。


「おーい!」


 遠くから聞き慣れた声が聞こえる。

 それは、ここにいるはずがない人物の声だ。

 こちらへ走って来ているのは、ダオカンさんだった。

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