グザンその5
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「おお、貴様。12番だったか?名前はなんというんだ」
見た目だけで選んで、拷問部屋まで連れてきたこの男なのだが……。
体が震えているし、目が怯えている。
見た目に寄らず、小心者なのではないか?
それならそれで好都合なのだが。
「ベ……ベナミスです」
「ベナミスだけではないだろう?」
「ベナミス・デミライト・キングです!」
なんだそれは。随分と大それた名前だ。
「ははっ!随分と立派な名前じゃあないかベナミス」
「あ、ありがとうございます!」
ベナミスは、俺様に向かって、膝をついて頭を下げた。
なんだか必死な様子に、笑いをこらえられなくなる。
「はーっははっ!それでベナミス君は。この国で何をやっていたのかな?」
兵士の様な風貌だが、兵士ということはないだろう。
兵士は俺様が皆殺しにしてやったのだ。
「はい!城でコック長をやっていました!」
それを聞くと俺様は更に大きく笑ってしまう。
「ひーっひひ!笑わせるな。お前は、その体と、その名前でコックをしていたというのか!面白い奴だな」
「ありがとうございます!」
何がありがとうございますなのだろうか。必死過ぎである。
だがちょっと待てよ……コック長だと?
「という事は、お前は料理が上手いんだな?」
「はい!それはもちろん!」
なんという偶然だろう。
俺様が革命軍のリーダーに選んだこいつが、この国のコック長だったなんて。
これは俺様の運命だ。こいつがリーダーに向いて無さそうなら、こいつは殺すつもりだった。
そして、また別の奴にしようかと思っていたのだが……もういい。一人目で当たりを引いたのだ。革命軍のリーダーはこいつに決めた。
「なんで呼ばれたかわかるか?ベナミス?」
わかるやつはいないだろう。
だが、あえて聞いてやる。
「いえ、全く……」
「ふうううう。簡単な話だ。奴隷を裏切れ」
わかりづらく言ったのはわざとだ。反応をみたい。
「いえ、それは……」
なんだ。こいつにも仲間意識があるのか。
「まあ、話を聞け。奴隷達にとってもいい話だ。革命軍を作るんだよ」
「何故ですか?」
「ごっこでいいんだ。その革命軍は、奴隷達の息抜きだ。希望が少しあったほうが、よく働くだろう人間は?」
「それを俺に作れということですか?」
おっと、そこそこ頭は回るようだ。
「よくわかってるじゃあないか。お前がやらなくてもいいんだぞ?別の奴にやらせるからな」
やらない場合は殺すがな。と心の中で続けた。
「やります!やらせてください!」
ベナミスの必死さを見るに、やらなかった場合どうなるか、察しているのだろう。
馬鹿ではないことは、ほんとうにいいことだ。
「そうかそうか。よーくわかった。それじゃあ……」
ベナミスが、ホッとしているのがわかる。
これで終わりだと思ったのだろう。
「12番を鎖で繋げ!」
「何故ですか!」
これから酷い事をされると悟ったのだろう。
何故って?それは簡単だ。
「上下関係ははっきりさせて置かなければいかんだろう?」
絶対に裏切らないように、恐怖を体に刻み付けないとな。
ついでに、ボロボロのこいつを見せつけてやれば、奴隷達にもいい薬になるだろう。
先に全てを話したのは、後になったら、俺様の話なんて聞く余裕がなくなるからだ。
そして、拷問が始まった。
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拷問の内容は様々だったな。爪を剥いだり、焼きゴテを体に当てたり、逆さまにして水桶につっこんでやったり。
そうして、今の従順なベナミスの出来上がりと言うわけだ。
もっとも今更な話だが、拷問などしなくてもこの男は従順だっただろうけどな。はっはっはっ。
そういえばこの時は、鞭ではなく、槍で拷問していた。
それに、もっとスリムだったし、もっと強かっただろう。
目の前にある、"こんな"ケーキを食べていたら、それは太ってしまうのも仕方がないだろう。
でも、別にいいのだ。
どうせもう戦うことはないのだし。
「ふぅむ……どうだ?お前も食うか?」
これは別になんてことはない一言だ。
"気にした"わけではない。
「いえ、私は味見したので」
「そうか」
つまらん男だ。
拷問していた時は、あんなにも情けなく、「許してください」「やめてください」と喚いてくれたというのに。最後には、俺様の靴を喜んで舐めていたくらいだ。
ふうううう。
しかし、旨い。
このでかいケーキは、一生無くならないのではないのかと思う程だ。




