ネフェストその4
俺は今とても気分がいい。
何故なら、勝利を確信しているからだ。
俺が長年研究して来た魔族に改造を施した実験体の最高傑作を今、外へと放ってきた。
これで、人間共は皆殺しに出来るだろう。
更に、魔王の間にも実験体共を並べている。
これがいい気分になれずにいようか。
そして、俺は"魔王様を超える魔王"となるのだ。
「ハーハッハッハッ!」
俺が高笑いしていると、魔王の間の扉が開きだした。
一瞬緊張をする。まさか人間ではあるまいな、と。
しかし、入って来た"物"を見て、俺は緊張を解いた。
「ん?おお!ジェミリオンではないか」
ジェミリオン。それは俺の作り出した実験体の一つだ。
凄く昔に改造した旧魔族だ。俺は実験体を忘れたりしない。
例えば、今俺から見て、右側の奥にいる実験体はエスキュートパルズマという名前の旧魔族だった。こいつは弱かったから改造した。
他にも、左側の手前にいる実験体はイリエタリスという旧魔族だ。こいつはどこかで勝手に死んでいたから死体を拾ってきて改造した。
関係ない話だが、エインダルトも改造したかったな。死体を回収できなかったから仕方ないが。
何故覚えているかと言うと、仲間を改造することに対する罪悪感――ではない。
自分の研究成果を覚えているのは普通の事だろう。
そして、ジェミリオンは失敗作である。
本人からは知能と理性を無くして欲しいと言われたのだが、当時の俺は知能がない実験体は弱いと思っていた。
だから、理性だけを飛ばそうとしたのだが、失敗して両方残ってしまったのだ。
まあ、実験に失敗はつきものである。おかげで、今は知能も理性もない実験体の方がいいと思わされたし、実際にそういう物しか作って来ていない。
そして、ジェミリオンは捨てて、それきりどこに行ったのかも知らなかった。
「何をしにきたのだ?」
だから、生きていたことにも驚き、今更この場に来た理由もわからないかった。
だが、凄くちょうどいい。
話し相手が欲しかったのだ。新魔族との会話は味気なさすぎるし、実験体どもには知性がない。
この俺の勝利を祝って欲しいのだ。
しかし、ジェミリオンは返事をしない。
知能を失っているわけではないと思う。
元々"俺と違い"、無口な奴だった。
「まあいいか。それより見ろ」
俺は窓の外を見るようにジェミリオンに促す。
「アア」
ジェミリオンは短く返事をすると、言われた通り窓の外を見だした。
魔王城の外では、俺の最高傑作の実験体と人間共が戦っていた。
やはり、こちらが圧倒的に押している。
「見ろ。我々の勝利は揺るがないだろう。俺は人間共に勝利するのだ!」
「ソウカ」
あれ?今見ろって2回言っただろうか?それに勝利するとも2回言ったかもしれない。まあいいか。
「ハハハハ!」
俺は窓から目を離すと、玉座に座り、気分良く高笑いをする。
ジェミリオンは変わらず、窓の外を眺めていたのだが、目線の先がおかしい。
下ではなく、上を見ているようである。
「おい、どこを見てい――」
その時、大きな音と共に窓が割れた。
そして、割れ散る窓の破片と共に、何者かが魔王の間へと侵入してきた。
「なんだ!」
その侵入してきた奴は、人間のように見えるが、顔をピエロの仮面で隠していた。
「やあ、すまない。待たせたね」
その奇妙な侵入者は、まるで何事もなかったかのような冷静な声で、そして"誰に向かってか"そんな事を言った。
混乱している俺の耳に、どこからか、美しい歌声が聞こえてきた。




