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ベナミス・デミライト・キングその3

 俺達が魔王城の"裏手"に着いてから、数日が経った。

 その間に、デミライト隊の奴等は、エイレスト王国の奴等と打ち解けてしまって、ひっきりなしに笑い声が聞こえるようになった。

 しかし、俺はというと、一人打ち解けられずにいた。

 いや、そう思っているのは俺だけなのだろう。

 相手の隊長であるゼンドリックと、その部下たちは、俺の元に毎日のように来るのである。


「奴隷だったころの英雄譚はいいからよ。今度はアジェーレ王国での活躍を聞かせてくれよ」


 そんなことを言われるが、そんなものはない。

 俺は、何もしていないのだから。


「ベナミスさんは凄いんですよ。魔王軍の第一軍団の軍団長相手に一歩も譲らなかったんですから!」


 そして、何故か俺ではなく、若き戦士ラエインが答えるのだ。

 そんな事実はない。

 いや……事実ではあるかもしれないが、足がすくんで動けなかったところを助けてもらっただけである。


 こういう空気を出されるのが、はっきり言って迷惑である。

 つまり、馴染めていないのだろう。

 だが、俺の気持ちとは関係なく、勝手に盛り上がりやがるのだ。

 本当に迷惑で仕方がない。

 

「ところで、この戦いが終わったらどうするんだ?」


 珍しくゼンドリックの口からまともな質問が出て来た。

 そんなの決まっている、皆で故郷に帰って、畑でも耕して老後を過ごすのだ。


「もちろん、アジェーレ王国の戦士として過ごすんですよ!」


 だが、俺の考えとは裏腹に、勝手にラエインが答えた。前は冒険者になりたいって言ってなかったか?

 そしてラエインがそうしたいのなら、デミライト隊はラエインに渡してもいいな。


「ね!ベナミスさん!」


 俺に振られても困る。

 まるで、その未来に俺が組み込まれているみたいである。


「ふっ……流石だな」


 何が流石なのかわからない。

 俺は、困り果てて天を仰ぐのだ。


 その時だった。


 その見上げた先の目に映る結界にひびが入り、大きな音を立てて割れたのだ。


「え?」


 あまりにも突然の事で、間抜けな声が出てしまった。

 だが、俺とは反対に、ゼンドリックは即座に叫んだ。


「結界が割れたぞ!エイレスト軍、突撃だ!」


 随分と勇ましい事である。


「ベナミスさん!」


 ラエインが俺の名を叫ぶ。

 何をしろとは言われていないが、何を求められているかはわかる。


「デミライト隊も行くぞ!続け!」


 この続けは、俺に続けではなく、エイレスト軍に続けである。これは大事な事だ。


 そして俺は、味方の後ろからこっそりとついていくのである。


 

     ♦



 結界が割れて、中に入ると、待ち構えていた魔族と戦闘になった。

 まだまだ魔王軍は戦力を温存していたらしい。

 廃墟の様な建物が並ぶ中で混戦となり、俺はラエインやダオカンとはぐれてしまった。

 

「隊長、こちらへ来てもらえるかな」


 どこからか、俺を呼ぶ声が聞こえる。

 "どこかで聞いたような声"だが、一体誰のものかはわからない。

 だが、俺の隊の者なのだろうから、変なことではないだろう。

 俺は声のする方へ向かい、やはり廃墟の様な建物の中へと入っていく。


「なんだ?誰だ?」


 そこには誰もいない。

 しかし、俺の見る先の床が光って見えた。

 俺はその床を確認しに行くと、建物の床の一部が地下へと繋がっているような階段になっていたのだ。

 何故か、その入り口のところに、火のついた松明が置いてあるのだった。


「地下室か?うわっ!」


 後ろから突然衝撃が来る。

 そして俺は、階段を転げ落ちた。

 さらに、後ろで何かが閉まった音が聞こえた。


「おい!おい!誰だ!」


 俺は急いで階段を駆け上がるが、上へと続く扉が閉まってしまっている。

 その扉は驚くほど頑丈で、いくら叩いても"びくともしない"のだ。

 そして、扉の向こうからの反応はない。


 そう、俺は閉じ込められてしまったのだ。

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