ベナミス・デミライト・キングその2
どれだけ長い間戦っただろう。
戦うのは嫌いだが、正直魔族に奴隷にされた人々を救うのは気分が良かった。
元は同じ奴隷だったからこそ、我々からすれば特に重要なことではあっただろう。
そして、戦って、戦い抜いて、我々はついに着いたのだ。
全ての元凶である、魔王のいる本拠地に。
と言っても、正確にはその手前である。
我々のデミライト隊が一番前で、魔王の本拠地まだはもう目の前である。
しかし、斥候の報告通りに、結界があってこれ以上進めないのであった。
「凄いもんだなこりゃあ」
そう言って、副官のダオカンが結界を叩いた。"こんこん"といい音が鳴る。
結界は、うっすらと膜のようなものに見える。
しかし、それは堅く、何をしても通る事が出来ないのだ。
「ああ、困ったな」
俺はそう言ったが、内心喜んでいた。
確かに、長い間魔族の奴隷として酷い扱いを受けて来た。
だが、別に俺は魔王に復讐したいってわけじゃあない。
そして、この結界が破れなきゃあ、魔王は閉じこもったままってことだ。
つまり、俺はやはり戦いたくないのである。
魔王とその住処が残る不安はあるが、もう人類の勝利は確定している。
あとは、この魔王城を囲み続けていればいいじゃないか。
そうなったら俺は、畑でも耕して余生を過ごすから。
俺が生きているうちに、また魔王が暴れ出さなけりゃいいのだ。
「これからどうするんですかね」
若き兵であるラエインも、何故か俺の元に来ていた。
お前は自分の部隊をまとめた方がいいと言いたい。
だが、言えない。
「とりあえずは包囲だろうな」
まだ、我々は目の前まで来ただけである。
周囲の森などには、モンスターや魔族が潜んでいるだろうし、魔族は一体足りとも逃がすわけにはいかない。
「伝令!伝令である!」
その時、ちょうど伝令がやってきた。
いや、伝令と言うか軍団長のレミトル殿だが。
「お、おお!レミトル殿。相変わらず大変そうですな」
「ふっ、そちらこそ」、
俺と違い、レミトル軍団長は戦が嫌いではなさそうである。
それはそれで羨ましいものである。
「デミライト隊は、ここから結界を外回りして裏手に回れとのことだ。そこが一番魔王城に近い」
それはつまり、われわれが先陣を切って、反対側まで行ってこいということである。
もちろん嫌である。
「ああ、わかった」
だが、仲間達の前で、隊長である俺がそんなことは言えないのだ。
「そして、魔法の国の援軍が来て、結界が消えたらすぐに魔王城へ突撃するようにということだ」
それも嫌である。
「了解」
だが、やはり断れないのだ。
「よし!デミライト隊出撃するぞ!」
まあ、とりあえず死なない程度にゆっくりと行くことにしようと思う。
♦
そして、結界の反対側についた頃には陽が暮れて、夜になっていた。
これでも早く着いた方である。
敵がほとんどいなかったからだ。
野生のモンスターにたまに会う程度であった。
急いで野営の準備をしていると、ラエインが急いで走って来た。
「ベナミスさん!逆側から味方がつきました!」
それは朗報である。
俺達の負担が減る。
「へえ、誰の部隊だ?」
俺達と同じくらい酷使されている部隊というと、メネイアの部隊だろうか?
「いえ、エイレスト王国の軍です」
「そうか」
エイレスト軍には知り合いはいない。
だが、まあ、なんとかなるだろう。
「あとで挨拶にいかんとな」
「それが……もう来てるんです!」
「なに?今来たばかりのはずだろう?」
早すぎる。
「それが相手の部隊長は隊の先頭を走ってたんですよ」
つまり、俺とは全く違う人間なのだろう。
「そろそろいいか?」
そして、俺達の間に一人の男が割って入って来た。
とにかく体がでかい男だ。
俺も体はでかい方だが、その俺よりも一回りはでかい。
この男が、その相手の部隊の隊長なのだろう。
「ああ、俺はベナミス・デミライト・キングだ。この部隊の隊長をやっている」
「ゼンドリック・エイレストだ。今来た部隊の隊長だ。よろしく頼む」
そう言って差し出された手を俺はとる。
しかし、エイレストという事は王族だろうか?
部隊の先頭を駆ける王族。まるで、ウィグランド王のようである。
さぞかし勇敢なのだろう。俺と違ってな。
「あなたには是非会いたいと思っていたんだ!」
ゼンドリックはそんなことを言い出した。
俺みたいな矮小な人間に会いたいとは奇特な奴である。
「何故だ?」
「気分を悪くしないで欲しいのだが、そちらの部隊は元奴隷だとか」
まあ、そうなるか。
アジェーレ王国の奴等でも、そう言う事を聞いてくる奴はいた。同情や見下しと言うよりは、根性あるなみたいな感じだったが。
「それは、凄いことだと思うんだ!是非話を伺いたかった!」
どうにもこいつはアジェーレ王国の奴等と変わらない考えを持っていそうである。
しかし、話を伺いたいと言っても、俺が魔族の前で這いつくばって足を舐めた話とか、鞭に打たれて泣きながら情けなく命乞いした話とか、自分だけが助かるために仲間を裏切り続けていた話を聞きたいのだろうか?
「あ、ああ、それじゃあ――」
そして、俺は語りだした。
もちろん、先ほどの様な情けない話はしない。
いいところだけを語り続けるのだ。
長い夜になりそうである。




