ネフェストその2
俺は頭がいい。
魔王なのだから当たり前だ。
先代の魔王様も頭は良かったが、俺ほどではないだろう。
そんな俺の出した予測である。
人間共がこの魔王城まで辿り着くには、まだ時間がかかるだろう。
早くても、あと1週間はかかるはずだ。
迎撃の準備を整えるには十分すぎる時間である。
私が生み出した新しい魔族が、人間共を薙ぎ払うのである。
「くははは」
その様子を想像するだけで笑いがこみ上げてくる。
その時、俺のいる部屋の扉が勢いよく開かれ、魔族が飛び込んできた。
「なんだ騒々しい」
「はい!しかし……」
やって来た魔族は少し言い淀んでから、言葉を続けた。
「人間共が結界の前までやってきました!」
「なにぃ!」
おかしい、早すぎる。
「嘘ではあるまいな?」
それは聞くまでもない事だ。
古い魔族はともかく、俺が生み出した魔族は俺に対して嘘などつかない。
「もちろんです!」
予定が狂ってしまった。
ふと、ある考えが、頭をよぎる。
今なら逃げれる。
もちろん、ただ逃げるわけではない。魔族の再興のためである。
そう、昔のようにである。
あの頃、まだ魔王様が生きていたころのように――。
♦
俺の番号はM201番である。
単純に、201番目に魔王様に作られた魔族と言うだけだ。
ただ、後期型であり、魔王様も"魔族を作るのを慣れていた"ころなのだろう。
だから、後期型の魔族には、なにかしら特別なものを仕掛けられていることが多かった。
例えば、俺にとってのそれは、"感情"であった。
魔族は機械と変わらない。
命令された通りに動く機械だ。
ただ、魔王様が全てを命令するのは難しいので、少なからず自分の考えを持ってはいたわけだが。それを心と言っていいのかはわからないが、間違いなく今でなら心を持った魔族は多かったと言える。
そして、最も強く心の奥底に入れられている命令は、"人間を滅ぼせ"であった。
しかし、ある日、魔王様は唐突に死んだ。
今の俺と同じように、人間を侵攻し、勝ちが見えて来た最中であった。
死んだ理由は、今でもわからない。
ただ、何者かによって殺されたのは間違いないだろう。
魔王様は、不死身であったのに。
だが、それはどうでもいいのだ。
その時、多くの魔族達は心の奥底に刻まれた命令の通りに、人間を一人でも多く道連れにするために戦い続けた。
だが、俺は違った。
魔族としては感情豊かに作られた俺の心には、人間に対する憎悪を持ちながら、逃げるという選択肢が出てきたのだ。
だから、逃げることに決めたし、逃げることが出来たのだ。
しかし、一人で逃げても逃げ切れる可能性は低かった。
俺は逃げる際に、多くの仲間達を集めた。
自分の為に賛同した者もいた。兄弟のために等とほざく奴もいた。長く何度も戦いたいだけの者もいた。何故ついてきたのかわからない者もいた。芸術が好きだという変わり者までいた。
そして、俺は仲間と逃げて、魔王となった。
魔王だからと言って、特別な生き物ではない。他の魔族と変わらない、ただの魔族である。
そもそも、我々を生み出した魔王様だって、ただの人間であった。
♦
今は、新しい魔族を生み出す方法も生み出した。
再び逃げることは、正しい選択である。
「だが!俺は逃げぬ!」
俺が突然叫ぶと、周囲にいた魔族達が驚く。
「何百年待ったと思っているのだ。今更やめることなどできるか!」
それに、結界がある。
いくら人間共が集まろうと、あの結界は破れない。
あの結界は、俺の叡智を注いで作り出したものだ。
魔法の天才の俺が作り出したものなのだ。
だから、結界は"人間では何百年かかっても破れないはず"である。
我々は何百年でも生き続けることが出来る。
つまり、我々の勝利は揺るがないのだ。
「ふはははは!」
俺は笑う。
何故なら、勝利を確信しているのだから。