アミュス・パメルその2
「まだ着かないんですか?」
魔法の国から出て、かなりの日にちが経った。
その間、ずっと馬車を走らせ続けて、もちろん時々は休んでいるのだけど、一向に魔王城へ着く気配はない。
だから、私はそんな不満を漏らしてしまう。
だって、いつまでも馬車に揺られて、お尻が痛くなってきてしまったのだから。
「まだ全然ですよ。もう魔族から取り戻した地帯には入っているはずですがね」
それは、なんとなくわかっていた。
だって、最近は野宿ばかりだからだ。
少し前までは、街で休むことが多かったのに。
でも、それは別に苦ではない。
私は箱入り娘ではないからだ。
昔は、お兄ちゃんと一緒に森に遊びに行くことも多かった。
「え?それって大丈夫なのか?」
ベルテッダが声をあげた。
どういうことなのかよくわからない。
「何がですか?」
それは、おばあちゃんも一緒のようだ。
「いや、ほらよ。元魔王領って事だろ?モンスターが出たり、魔族の生き残りとかいるんじゃねえかなって……」
「一応言っておきますが、元魔王領とは絶対に生き残りの人には言わないでくださいね」
「ああ、わかってるよ。元人間領の、元魔王領の、現人間領だもんな」
ベルテッダの言った事は、頭がこんがりそうだ。目を回してしまう。
「それで……モンスターはどこにでも出ますし、魔族の生き残りはいないでしょう。軍が見逃しませんよ」
目を回している私を置いて、おばあちゃんは話を続ける。
「それに、あなたは一応、私達の護衛なのですからね」
「いや、守られるのは俺の方なんだが……」
ベルテッダが戦ってるところは見たことがないけど、そんなに弱くはないと思う。
でも、おばあちゃんは凄く強いのだ。凄い魔法を使えるのだ。流石は元学園長なのである。
私は自分の事のように、胸を張る。
「何をしているのですがアミュスちゃん」
そんな私を見て、おばあちゃんが話しかけて来た。
「胸を張ってました!」
それを聞いたベルテッダが、「張るほど胸はないだろ」と小さく言ったのを、私は聞き逃さなかった。
なので、近くにあったものを適当に投げて置く。
「おっと!」
しかし、それは簡単にベルテッダに受け取られてしまった。
しかも、私に対して得意気な顔を返してくる。
ベルテッダは元々盗賊で器用なのだ。
「それで、いつ頃着くんですか?」
最初の話題に戻る。
もう、森を眺めるのも飽きてしまった。
「そうですね……まだ、あと2週間以上はかかるでしょう」
「ええ!」
そんなに長かったら、お尻が二つに割れてしまう!
「どちらにせよ、まだ軍隊の方も魔王の本拠地には着いていないと思いますよ。魔王軍の抵抗は激しいでしょう」
つまり早く着いてもしょうがないということだ。
「えええ……」
長い、苦難の旅になってしまいそうである。