ベナミス・デミライト・キングその1
俺の国を魔族が襲い、俺が魔族の奴隷になってからは、俺は嘘をついてばかりだった。
もちろん好きで嘘をついていたわけではない。
魔族に脅されて、裏で魔族とつながりながら、奴隷仲間をまとめる為に王国の軍団長だと嘘をついていたのだ。本当は、俺はただの王宮付きのコックだったというのに。
だが、それは俺なりに仲間の為を思っての事だ。
そして、俺が魔族から解放された時に、ようやく嘘をつかなくて済むはずだった。
だが、何故かそのまま奴隷だった仲間達をまとめ上げさせられた。
しかも、何故か気付いたら、我々はアジェーレ王国の軍団の一部隊にとなっていた。
仲間達は、未だに俺の事を、元居た王国の軍団長だと思っているのだが、俺は弱いし、部隊長の器ですらないのにだ。
しかし、今更俺はそんなことは言い出せない。
仲間の為でもある。今更"デミライト隊"を解体など出来ないのだ。
いや、どう取り繕うと、俺は我が身可愛さに嘘をつき続けているにすぎないのだ。
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そして、俺は今日も戦っている。
正確には戦っているフリをしているだけだ。
「よし!ラエイン隊前へ!」
仲間に適当な指示をだしながら、俺は後ろで弱ったモンスターを倒しているだけだ。
アジェーレの王国の軍団に入り、デミライト隊と名付けられた俺達は、何故だか出世してしまった。
俺は出世なんてしたくないのに、思ったよりも、俺の仲間達は強かったようだ。
更に、今は部隊の人数も増え、元居た奴隷仲間達だけではなく、正規のアジェーレの兵隊達も多く入ってきている。正直俺には扱いきれないからやめて欲しい。
だからと言うわけでもないが、何人かに兵を分け与えてある。
若き勇士であるラエインもその一人だ。
ラエインも俺と同じ部隊長というわけである。と言っても俺の部隊の中での話だし、少し暇が出来ると、すぐに俺の元に来る困りものではある。
そして、副官のダオカンだが――こいつには兵を分け与えていない。
何故って?
こいつが俺の側にいないと危険だろう。俺がな。俺は弱いからな。そして、ダオカンは剣の達人なのだからな。
そんな俺達だが、進軍している先は魔王の本拠地である。
いや、俺達というか、俺が所属しているアジェーレ軍とエイレスト軍なのだが。
俺達が奴隷として囚われていた地――つまり、俺達の故郷はもう奪還済みではあるのだが、そこに留まりたがる奴は俺以外にいなかった。もちろん俺は口には出さなかった。
まあ、"誰かが"魔王を倒してくれれば平和な世の中が戻るのだ。
適当に進軍に付き合っているフリをすればいいだけなのである。
「ベナミス様!ウィグランド王がお呼びです」
やばい、手を抜いているのがバレたのかもしれない。
「お、おう……すまん、行ってくる。」
だが、戦場から逃げれるのは悪くない。
「おう!任せて置け!」
ダオカンが勢いよく答えた。
俺がいない時はダオカンが先頭に立って、デミライト隊を率いてくれる。
デミライト隊に、デミライトは必要ないのだ。
♦
本陣に急いで行くと、俺以外の見知った顔が全員揃っていた。
ウィグランド王はもちろん、軍団長のレミトルに、軍師のキルエスや、歌姫のウルスメデス――は何故いるのかわからんが、他にも別の部隊の隊長であるメネイア等もいる。
普通の軍議であるようである。まさか全員で俺を糾弾したりはしないだろう。
「遅れて申し訳ない」
とりあえず、皆俺を待っていたようなので謝った。
「良い。お前がいるところが一番激戦区だからな」
え?そうだったのか?
俺が"ポカン"としていると、歌姫のウルスメデスが笑ったような気がした。
「それじゃあ、軍議を始めるね」
抗議をしたいが、そんな隙間もなく軍師のキルエスが話始めた。
「もう魔王の本拠地はすぐそこだ。だから、斥候を放ったんだ」
魔王の本拠地というのは、魔王の城ではあるのだが、元々は人間の王国であったそこは、廃墟ではあるが城下町などもあり、まさに魔王の国、魔王の本拠地と言い表せる場所である。
「そこで問題があったんだ」
皆がどよめく、隣にいるメネイア殿は全く動じない顔をしているが。
「魔法による結界があってね。魔王の本拠地には、人間は入れないようになっている」
入れないなら仕方がない。帰ろう。
と言いたいが、流石に言えない。
「どうするのだ?」
レミトル軍団長が口を挟んだ。
「大丈夫。魔法の国から結界が解けそうな方を援軍で頼んだから」
魔法などというものは、俺は全く知らないし扱えない。というか俺の部隊には扱える者はいない。
だが、魔族はバンバン使ってくるのだから困る。
そんな印象だが、味方に魔法使いが来るとなれば、心強いものである。
「だから、今のまま進軍は続けるよ。まだそこまでは辿り着いてはいないからね。ただ、しばらくは、結界の前で立ち往生になるかもね」
なるほど、とりあえずは現状維持というわけだ。
いや、それは困る。俺のところが激戦区と言うのは人選が間違っている。変えて欲しい。
「それじゃあ、そう言う事で、各自戻っていいよ。忙しいところありがとう!」
だが――文句など言えないのだ。
「それじゃあ、皆の者、行こうぞ!」
この、真っ先に自分が戦場に出る、ウィグランド王の前では……。