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ベナミス・デミライト・キングその1

 俺の国を魔族が襲い、俺が魔族の奴隷になってからは、俺は嘘をついてばかりだった。

 もちろん好きで嘘をついていたわけではない。

 魔族に脅されて、裏で魔族とつながりながら、奴隷仲間をまとめる為に王国の軍団長だと嘘をついていたのだ。本当は、俺はただの王宮付きのコックだったというのに。

 だが、それは俺なりに仲間の為を思っての事だ。


 そして、俺が魔族から解放された時に、ようやく嘘をつかなくて済むはずだった。

 だが、何故かそのまま奴隷だった仲間達をまとめ上げさせられた。

 しかも、何故か気付いたら、我々はアジェーレ王国の軍団の一部隊にとなっていた。

 仲間達は、未だに俺の事を、元居た王国の軍団長だと思っているのだが、俺は弱いし、部隊長の器ですらないのにだ。


 しかし、今更俺はそんなことは言い出せない。

 仲間の為でもある。今更"デミライト隊"を解体など出来ないのだ。

 いや、どう取り繕うと、俺は我が身可愛さに嘘をつき続けているにすぎないのだ。

  


     ♦



 そして、俺は今日も戦っている。

 正確には戦っているフリをしているだけだ。


「よし!ラエイン隊前へ!」


 仲間に適当な指示をだしながら、俺は後ろで弱ったモンスターを倒しているだけだ。

 

 アジェーレの王国の軍団に入り、デミライト隊と名付けられた俺達は、何故だか出世してしまった。

 俺は出世なんてしたくないのに、思ったよりも、俺の仲間達は強かったようだ。

 更に、今は部隊の人数も増え、元居た奴隷仲間達だけではなく、正規のアジェーレの兵隊達も多く入ってきている。正直俺には扱いきれないからやめて欲しい。


 だからと言うわけでもないが、何人かに兵を分け与えてある。

 若き勇士であるラエインもその一人だ。

 ラエインも俺と同じ部隊長というわけである。と言っても俺の部隊の中での話だし、少し暇が出来ると、すぐに俺の元に来る困りものではある。


 そして、副官のダオカンだが――こいつには兵を分け与えていない。

 何故って?

 こいつが俺の側にいないと危険だろう。俺がな。俺は弱いからな。そして、ダオカンは剣の達人なのだからな。


 そんな俺達だが、進軍している先は魔王の本拠地である。

 いや、俺達というか、俺が所属しているアジェーレ軍とエイレスト軍なのだが。

 俺達が奴隷として囚われていた地――つまり、俺達の故郷はもう奪還済みではあるのだが、そこに留まりたがる奴は俺以外にいなかった。もちろん俺は口には出さなかった。


 まあ、"誰かが"魔王を倒してくれれば平和な世の中が戻るのだ。

 適当に進軍に付き合っているフリをすればいいだけなのである。

 

「ベナミス様!ウィグランド王がお呼びです」


 やばい、手を抜いているのがバレたのかもしれない。


「お、おう……すまん、行ってくる。」


 だが、戦場から逃げれるのは悪くない。


「おう!任せて置け!」


 ダオカンが勢いよく答えた。

 俺がいない時はダオカンが先頭に立って、デミライト隊を率いてくれる。

 デミライト隊に、デミライトは必要ないのだ。

  


     ♦



 本陣に急いで行くと、俺以外の見知った顔が全員揃っていた。

 ウィグランド王はもちろん、軍団長のレミトルに、軍師のキルエスや、歌姫のウルスメデス――は何故いるのかわからんが、他にも別の部隊の隊長であるメネイア等もいる。

 普通の軍議であるようである。まさか全員で俺を糾弾したりはしないだろう。


「遅れて申し訳ない」


 とりあえず、皆俺を待っていたようなので謝った。


「良い。お前がいるところが一番激戦区だからな」


 え?そうだったのか?

 俺が"ポカン"としていると、歌姫のウルスメデスが笑ったような気がした。


「それじゃあ、軍議を始めるね」


 抗議をしたいが、そんな隙間もなく軍師のキルエスが話始めた。


「もう魔王の本拠地はすぐそこだ。だから、斥候を放ったんだ」


 魔王の本拠地というのは、魔王の城ではあるのだが、元々は人間の王国であったそこは、廃墟ではあるが城下町などもあり、まさに魔王の国、魔王の本拠地と言い表せる場所である。


「そこで問題があったんだ」


 皆がどよめく、隣にいるメネイア殿は全く動じない顔をしているが。


「魔法による結界があってね。魔王の本拠地には、人間は入れないようになっている」


 入れないなら仕方がない。帰ろう。

 と言いたいが、流石に言えない。


「どうするのだ?」


 レミトル軍団長が口を挟んだ。


「大丈夫。魔法の国から結界が解けそうな方を援軍で頼んだから」


 魔法などというものは、俺は全く知らないし扱えない。というか俺の部隊には扱える者はいない。

 だが、魔族はバンバン使ってくるのだから困る。

 そんな印象だが、味方に魔法使いが来るとなれば、心強いものである。


「だから、今のまま進軍は続けるよ。まだそこまでは辿り着いてはいないからね。ただ、しばらくは、結界の前で立ち往生になるかもね」


 なるほど、とりあえずは現状維持というわけだ。

 いや、それは困る。俺のところが激戦区と言うのは人選が間違っている。変えて欲しい。


「それじゃあ、そう言う事で、各自戻っていいよ。忙しいところありがとう!」


 だが――文句など言えないのだ。


「それじゃあ、皆の者、行こうぞ!」


 この、真っ先に自分が戦場に出る、ウィグランド王の前では……。

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