ネフェストその1
「ああっ!何故!こうなったんだ!」
俺はそう叫んだ。
広い部屋に、声が反響する。
「落ち着いてください!」
側近が暴れ出そうとする俺の体を押さえた。
「離さんか!」
だが俺は側近を振りほどくと、近くの机をひっくり返した。
「おやめください、魔王様!」
そう、"俺は魔王"。魔王なのだ。
この世界を統べる魔王になるはずだったのだ。
「うおおおお!」
俺は更に暴れる。椅子を破壊し、杯を割り、壁を殴って穴を空けた。
「はぁ……はぁ……」
もう少し、もう少しで、世界が俺のものになるはずだったのだ。
だが、人間共は我が軍を押し返し、一気に魔王領を奪っていった。
何をどこで間違えたのかわからない。
長い間潜伏し続け、研究をし、魔族を新たに増やした。
更に計画も綿密に練って、実際にそれも上手くいき、人間を蹂躙だって出来た。
そして更に……だ。勇者が死ぬのだって待ったのだ。これは運よく勝手に疫病で死んでくれたのだが。本当は寿命まで待つつもりだった。
「俺に落ち度はなかったはずだ!」
そして、圧倒的に魔族が有利な状態で事が運んでいたはずなのである。
「一体何が"予定外"だったというのだ!」
途中までは完璧だったのだ。本当にほんの少し前までは……。
「だが!」
俺は再度壁を叩くと、振り返り、歩き出した。
「まだ終わっていない。もう古い魔族等いらなかったのだ」
だから、時間稼ぎに使っている。
そのおかげで、まだ人間共はここまでは辿り着いてもいないし、辿り着いたとしても結界だってあるのだ。
「研究室に行ってくる」
俺はそう言い残すと、王の間から離れたのだった。
♦
と言っても、この城はもう研究室ばかりである。
全部俺の所有物だ。
俺がいなければ新しい魔族は生み出せないし、そして俺がいなければ――
「まだ、終わってはいない。こいつらがいるのだ」
この、魔族を改造した更に新しい魔族を生み出せないのだ。
俺が生み出した新しい魔族は、古い魔族を超える事は出来なかった。
それは、先代魔王を超える事が出来ないと言われているようで、凄く嫌だった。
だが、まずは魔族の再興が先決だったので我慢し、新しい魔族を生み出し続けた。
人間共を蹂躙し、余裕が出来てからは、俺は研究に没頭した。
更に強靭な魔族を生み出すためだ。
そして、実際にそれは成功したのだ。
多くの犠牲を出したし、理性がなくなってしまったなど問題はあるが、古い魔族より強い魔族を俺は生み出したのだった。
「そう、つまりそれは、俺を作った先代の魔王をも超えたという事なのだ!」
俺は誰もいない研究室で、そう叫ぶのだった!




