モルディエヌス・エイレストその13
我々の国は、魔王軍との戦いに勝利し続け、快進撃を続けているという。
だが、私はそのことは心配していなかった。何故なら母様がそうなると言っていたのだから。
"これからも"、私は母様の言う通りに生きて行けばいいのだ。
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私がいつものように母様と過ごしていると、扉が急に開き、私は身構える。
今日は誰もここには来ないはずである。ピエロが来たとしても、扉からは入ってこない。
だが、私はすぐに警戒を解く。
扉から入って来た人物はオージェリンであった。
「オージェリンか」
「私が来てはいけないの?」
駄目ではないが、"あの日"以来、この場所に予定にない訪問をオージェリンがするのはこれが初めてである。
「ああ、なんでもないんだ。何をしに来たのだ?」
「夫に会いに来るのに、理由がいるのかしら?」
最近のオージェリンはずっとこんな調子である。
妙に私に媚びているのだ。
だが、その理由はわかっている。
「今日は何を持ってきたんだ?」
だから、私は聞く。
間違いなく、何かを持ってきているはずである。
そして、その中に毒が入っているのも、もちろん私は気付いている。
"だから、ピエロが処理している"のだ。
「いいえ、今日は何も持ってきていないわ」
「珍しいですね」
「ああ」
それは、つまりどう取るべきだろう。
諦めたのだろうか?
「そうか、ならば、こちらに来るといい」
最近のオージェリンは言わなくても"こちらまでやってくる"。
たった少しの距離だが、その距離をオージェリンが詰めてくることは前にはなかった。
その理由は、私にはわか――らない。
「行かないわよ。そんな――臭いところ」
ああ、駄目だ。
「オージェリン。それは駄目ですよ」
母様だって駄目だと言っているのだ。
「オージェリン!」
だから、私は声を荒げて妻の名を呼んだ。
「もう、うんざりなのよ!」
だが、オージェリンも声を荒げてきた。
「オージェリン落ち着きなさい」
母様がオージェリンをなだめるが、"効果はない"。
「いい加減を現実を見なさいモルディ!」
"何の事だかわからない"が、とても腹が立つ。
「オージェリン、それ以上口にするようなら、私はお前を斬らなければならない!」
脅しではなく、剣へと手を伸ばす。
「あなたの母様は――死んでいるのよ!」
「あああああああ!」
私は叫びながら、オージェリンへと斬りかかった。




