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ウィグランド・アジェーレその4

 私は今日も戦場を……駆け回りたかった。

 だが、今日は駄目なのである。

 今日は私の婚約の祝いの宴の日なのだから……。


 どちらの国で祝いの宴を開いてもよかったのだが、我がアジェーレ王国で開くこととなった。

 表向きの理由は、いつでも戦況が変わっても大丈夫なようにだったり、私が戦場を長い事抜けるわけにはいかないとかだったり、戦争に関わる事になっているはずだ。

 だがその実、実際の理由は歌姫ウルスメデスがごねたからである。


 本人曰く「他国にいる間ずっとウルスメデスを演じていないといけねえんだろ?それは無理だ」との事だ。

 だが、それなら無理に着いてこないでいいと言ったのだが「主役の私がいなくてどうするつもりなんだよ」と言われてしまった。

 主役は私と私の妃なんだが、我が国で開く宴ともなると、あながち間違ってもいないところではある。

 

 まあそう言うわけで、私は宴の席で、訪問して来たエイレスト王国の貴族の相手をしているというわけだ。


「おお!あなた様がかの有名な子供す……戦神と言われるアジェーレ王様ですか。お会いできて光栄です」


 今、子供好きと言おうとしたのではないか?そうだよな?もしかして、エイレスト王国ではそれで定着してしまっているのか?

 そして、戦神などと呼ばれた記憶もないのだが、一体いつから私は戦神になったのだろうか……まあ、そう言われるのはとても嬉しい。少なくとも、子供好きなどという称号よりは全然マシである。


「いえ、こちらこそ。末永くよろしくお願いいたします」


 軽く握手をして、適当な言葉を返すと、流れるように次の者が出てきて、同じような事を言う。

 しかし、エイレスト王国の貴族は我が国の貴族とは全然違う。

 我が国の貴族は、元々武闘派の者しかいなく、今では軍人しかいないので、全員暑苦しいとしか表現できないような者ばかりである。

 しかし、エイレスト王国の貴族は、優雅で戦いとは無縁のようにしか見えない者ばかりである。


「アジェーレ王!ご婚約おめでとうございます!」


 いや、一人だけは、うちの国に馴染めそうな者もいた。

 ゼンドリック・エイレストである。

 この者は、貴族どころか王族であるのに、戦う為に生きているような男である。


「ありがとう」


 と言っていいのかわからないが、祝いの席で余計な事を言うような事は流石にしない。


「ゼンドリック殿も結婚が決まりましたら、是非呼んでください。必ず駆け付けますので」


 だから代わりに、そう言ってやる。


「いやあ、私は相手がいませんから。まだまだですな」


 そうは言うが、私も相手はいなかったし、まだまだでもあった。


「そうですか?副官の女性なんかとは仲が良いように見えますが?」


 これは、私が考えたことではない。ウルスメデスが言っていたのだ。

 理由は女の勘だという。


「ええ、あいつですか?いやあ、歳が結構離れてますからねぇ……あっ!」


 ゼンドリックがしまったという顔をする。

 この男も、私と同じで深く考えずに言葉を喋ってしまう者である。


「いや、良い」


 私がそう言うと、ゼンドリックはバツが悪そうな顔をして、


「それでは、後ろがつかえているので、この辺りで失礼します」


 と言って去っていった。

 中々に面白い男である。

 そうだ、私に娘が出て来たらゼンドリックと結婚させてやろう。

 我ながら名案である。


 それはともかくとして、それからもエイレスト王国の貴族達との挨拶は続いた。

 そして、それも落ち着いたころに、この宴の主役が顔を出してきた。

 ……もちろん、ウルスメデスではない。


「ご機嫌よう、アジェーレ王様」


 エイレスト王国の第二王妃とピリフィルとリュジェラである。


「お、おお!これは……オージェリン殿。それにピリフィルとリュジェラも」


 流石に最近知ったばかりとは言え、自分の妃の名前を忘れるわけがないし、隣国の王妃の名前を忘れる……わけもない。


「我が国の王は多忙で、第一王妃は妊娠中でして、第二王妃の私だけの訪問となり、申し訳ございません」


 エイレスト王国程の国ともなれば、王は忙しいのだろう。

 私は、面倒な政務は昔から大臣達に丸投げてしまっているが。


「いえ、こちらこそ無理を言って、こちらの国で行わせてもらって申し訳ない」


 事情が事情だけに本当に申し訳ない。

 特に王が多忙で来れないとなると、くだらない理由でこちらの国で催しになってしまって、より申し訳なさが際立つ。


「そんな……戦争中で大変でしょう。仕方がありませんわ」

「え?ああ、そうなのですよ」


 そういえば、表向きはそういう理由だった。

 少し変な態度をとってしまったが、大丈夫だろうか?


「それでは、私はこの辺りで……」


 しかし、どうにもオージェリン殿は気にもしなかったようで、ピリフィル達を残して、どこかへと去って行ってしまった。

 正直に言うと、残っていて欲しかったのだが、主役は我々である以上残る気はなかったのだろう。

 仕方がない事だ。


 そして、私達三人になると、ピリフィルとリュジェラは、それぞれ私の両隣へと寄り添った。

 当たり前だが、子供なので、頭が腰の位置くらいにしかない。

 自分からはわからないが、やばい絵面なのは容易に想像がつく。


 それでも、私達三人が揃うと、皆は盛り上がり、私達の周りへと群がって来た。

 そして機を見て、ウルスメデスの歌も始まり、更に宴は盛り上がる。


 そうして宴は、素晴らしい盛り上がりを見せて終わったのだった。

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