ゼンドリック・エイレストその11
アジェーレ王国に来てからは、毎日戦い続きである。
その為に来たのだから当たり前ではあるが、こうも毎日モンスターを倒し続けていては気も滅入るというものだ。
そんな事を考えながら戦っていると、アジェーレ王が目に入った。
俺は喜んでアジェーレ王の近くへと馬を走らせる。
「おお、アジェーレ王!戦場で並んで戦えるとは光栄です!」
短い間だが、もう俺はアジェーレ王に深い信頼を抱いていた。
「おお!それでは参ろうか!」
そして、アジェーレ王も私の呼びかけに答えてくれるのだから、アジェーレ王からも俺は信頼されているのだと思う。
それは、この上なく嬉しい。
そして、二人でモンスターの群れへと突っ込もうとした時だった。
「盛り上がってるところ悪いんだけど。ちょっといいかな?」
俺達の元へと声がかけられる。
声をかけた主の方へと振り向くと、アジェーレ王の右腕ともいえる軍師キルエス・ガーレムがいた。
俺は、この国に来るまで彼の事など知らなかったのだが、ここ数日で彼の指揮を見て、彼がアジェーレ軍においてきわめて重要な人物だというのはよくわかった。
「城に戻ろうか」
だけど、キルエスはそんなことを言った。
「何故だ?」
「そうだぜ!せっかくいい所だったのに!」
だから俺達は抗議する。
「今日は、エイレスト王国から大事な使者が来るって言ってあったよね?」
「それって婚姻同盟の話か?」
俺はすかさず聞き返した。
いくら俺だってそれくらいの話は知っている。
アジェーレ王国と同盟を結ぶのはいい話だし、歓迎はしたい。
だが、オージェリンが考えているのはそう言う事ではないだろう。
「そうだね」
「使者って誰が来るんだ?」
本来であれば、王であるモルディエヌスか、王妃であるシェラミエが来るところだろう。
しかし、シェラミエは妊娠中だし、来るとしたらモルディエヌスだろうか?
もし、モルディエヌスが来るのであれば、俺も城へと一目会いに戻ろうかと思うところだ。
「エイレスト王国の第二王妃のオージェリン・エイレストと第一王妃のピリフィル・エイレストって言う人だそうだよ」
やはりそう来たかという感じである。
「そ、そうか。アジェーレ王」
オージェリンが外交官であれば、きっとただでは済まないだろう。
「ウィグランド王で構わない」
名前で呼ぶのを許してもらえるのは嬉しいが、今でなくてもいいと思う。
「ご武運を」
俺も一応エイレスト王国の人間である。
エイレストの国益を損なうような事は出来ない。俺が口出しするべきではないのだ。
だから、俺はそれだけ言って、戦場へと駆けていった。
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そして夜になり、飯時になると、やはり自然と仲間達がその話を出す。
「今日、うちの王国とアジェーレ王国の婚姻同盟が成立したみたいですね」
知らなかったが、予想通りではある。
アジェーレには兵は残っているもの、王都に人が戻って来れず、我々が居座っているくらいだ。
内地には人が残っているのだろうが、大量の人間が戦争で死んだことには変わりない。
どうしたって国力を回復させるのには助けがいるのだろう。
「ああ、ウィグランド王は大変だな。王妃が子供だなんて」
それでも渋っていたのは、婚姻相手がシェラミエの娘で、まだ子供であるからに過ぎない。
俺だって子供と結婚しろと言われたら困る。
ウィグランド王には悪いが、本当に王にならなくて良かったと思う。
「それも二人もだなんてね」
そうだな、二人もだなんてな……。
「え?二人?」
俺はつい聞き返す。
ピリフィルと婚約するんじゃなかったんもか?
「な、なんか、ピリフィル王女とリュジェラ王女と結婚するって聞いたんだ」
リュジェラ王女と言うと、オージェリンの娘である。年齢はたしか……7歳だったはずだ。
オージェリンがわざわざ来たかと思ったら、自分の娘をねじ込むためだったのか。
だからと言って、二人の子供と結婚する必要はないと思うが……。
「はは!アジェーレ王様は子供好きなんだね」
ティルネが無邪気に言うが、本人にそのつもりがなくても、聞きようによっては別の意味である。
いや、あのアジェーレ王が別の意味でそうだとは思いたくない。
「ま、まあ!婚姻が結ばれたことも、同盟が結ばれたこともめでたいことなんだ!素直に喜ぼうじゃないか!」
少し複雑な気持ちだが、喜ばしい事ではある。
俺達は乾いた笑いで、この喜ばしい出来事を祝ったのだった。




