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ゼンドリック・エイレストその10

 アジェーレ王国に来てから1週間が経った。

 これだけいればこなれたもので、夕方頃に戦が終わると、俺達は自分達の"家"へと帰って来る。

 もちろん、戦に終わりはない。ただ夕方頃には主力を引き上げて、残った兵達で戦線を維持するのだ。


 そして、家というのも、当然アジェーレ王が与えてくれた建物である。

 当然、一人一つの建物と言うわけにもいかず、軍隊は分けて、無理矢理押し込んでいるような状態だ。つまるところ、兵舎というわけである。


 そんな中でも、俺は軍団長であるのだし、俺だけは特別に一人で一つの部屋を――


「あー!それ、あたしのだよー」

「早いもの勝ちだよ」

「誰のものでもありませんよ。みんなのものです」

「こ、これあげるよ」


 取ろうと思ったのだが、そんなことは無駄だった。

 さも当たり前のように、こいつらは勝手についてきてしまうからだ。

 まあ、俺は賑やかなの嫌いじゃないから、まんざらでもないんだけどな。


「おい、俺の分は取るなよ?」


 今は飯を食っている最中ではあるが、飢えた獣のこいつらの前では油断も隙もあったものではない。

 

「はーい」


 と言いながら、俺の皿へと手を伸ばすティルネの手を叩く。

 食器は元々この家に置いてあったものだ。

 何故置き去りなのか……考えるまでもないだろう。

 内地へと急いで逃げたのか、あるいは……。


「今日も楽勝だったね~」


 重い考えも吹き飛ばすような能天気な声が耳に入って来る。

 当然ティルネである。


「元々少し余裕があったみたいだからね。そこに僕達が来たのなら楽勝にもなるだろうさ」


 そもそも、今相手にしているのは、魔王軍の第9軍団だ。

 番号が若い順に強いらしいので、それほど強くない軍団のはずである。

 恐らく、魔王軍も時間稼ぎをしているだけなのだと思う。


「どうせなら、第一軍団と戦いたかったもんだな」


 俺は素直な感想を言う。


「隊長!」


 すると、リリッチが大声を上げて怒った。


「絶対に、アジェーレの兵の前では言わないでくださいね」


 ああ……確かに考えなしだった。

 どれだけの激戦で、どれだけの死人が出たともわかない。俺達が軽々しく口にしていいものではないだろう。兵達にも言い聞かせておかなければならない。


「失言だったな。すまない」

「いえ……」


 なんだか少し暗くなってしまった。


「しかし、俺は幸せ者だな!こんなに優秀な副隊長がいて!」


 だから、俺は明るくなるように、わざわざ大きな声でそう言った。


「えっ!いえ、そんな……」


 リリッチは恥ずかしがって顔を伏せてしまう。


「駄目だよ隊長、リリッチは隊長に褒められると嬉しすぎて顔が真っ赤になっちゃうんですから」


 そうだったのか、知らなかった。だからいつも下を向くのか。


「もう!そうではありません!」


 そう怒って、顔を上げたリリッチの顔は赤かった。


 だが、あまり弄りすぎても可哀想だろう。


「そういえば、やはりウィグランド王は凄いな」


 だから俺は、話題を変えてやった。

 と言っても、この話題ももう何度目かわからないかもしれない。

 もちろん話し出すのは毎回俺だが。


 それだけウィグランド王は凄いのだ。

 戦場に出ればいやが王にも目に入るし、それどころか一緒に戦うこともある。

 隣に立てば、王でありながら王国最強の戦士であるのも納得するほどの勇猛さを感じさせられるのだ。


「僕達からすれば隊長も変わらないんだ」


 嬉しい事を言ってくれるが、俺なんてまだまだである。


「それに、ウィグランド王だけではなく、アジェーレ王国の戦士達だって強くて驚いたよ」


 驚いたと言っても噂通りである。

 強国の兵士が強かったというだけの、当たり前の話だ。


「そういえば、面白い話を聞いたね」

「え?なになに?」

「魔王軍に奴隷にされていた人間の部隊があるってさ」


 それは俺も聞いた。

 まだ実際に"会ってはいない"のだが、魔王領から逃げて来た奴隷で構成された部隊らしい。

 

「ああ、きっと、そいつらも滅茶苦茶強いんだろうな」

「え~奴隷だったんでしょ?」


 奴隷だったからである。

 奴隷という身分ではまともな武器も持てないし、準備をすることだって出来なかっただろう。

 そんな状態で、魔族を殺して、魔王領を斬り進んできたという話である。

 並大抵の者には出来ない。

 その部隊の隊長の名前はベナミスという名前らしい。

 きっと、ウィグランド王に負けず劣らずの強さを持った者なのだろう。


「まあ、実際に見る機会があればわかるさ」


 そいつらが強いってことはな。


「そうですね。いつか戦場で会う日もあるでしょう」


 そう言ったリリッチの顔はもう赤くなかった。


「さあ、飯が冷めるぞ。食え食え!」


 と言っても、元々俺達は談笑しながらも、飯は食っている。

 だけど、皆嬉しそうに、それぞれ「はい」と返事をするのだった。

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