表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/228

グザンその3

 昼に起きて、外を眺めると大変いい天気だ。

 こういう日は"気分がいい"。

 奴隷達が、いつもより多く汗水流して、辛そうに働いてる姿を見れるからだ。


「おい、なんでもいいから、甘い飲みものを持ってこい」


 部下に命令する。

 そして、その間に身支度を整えた。


 遅い。

 それくらいでイライラしたりはしない。

 だが、遅い。

 いつもこんなものだっただろうか?

 

 本でも読もうかと、ふと棚を見ると、本棚の隣の棚に飾ってある槍が目に入った。

 とても大きく、重厚感のある槍だ。

 この槍は、俺様にとっては大切なものである。

 だがしかし、見たくないものでもある。


 かつて、魔王軍の一員として、この槍を手に戦場を駆け巡ったものだ。

 その戦いで、何人もの英雄を討ち倒した。

 だから、この槍は栄光の証だ。


 それと同時に、その戦争での敗北も記憶に蘇る。

 そして、見ての通りこの槍は、もう長い事この棚から出ていないし、出る予定もないだろう。

 俺様が戦わなくても、もう魔王軍の勝利は確定的なのだから。


 つまり、この槍を見ると、昔の栄光を思い出すと共に、所詮は過去の栄光だと思い知らされてしまう。

 複雑な気持ちというわけだ。

 

 そして今、槍は鞭に持ち替えた。

 俺様は今持つのは、奴隷を叩くためだけに使う鞭だけだ。


 そんなことを考えていると、やっと部下が飲み物を持ってきた。

 遅かったが、黙って置いていく部下を見ても、腹を立てたりはしない。

 今日の俺様は気分がいいからな。


 飲み物を飲んで、今日はどうしようかと考える。

 部屋で読書もいいが……やっぱりこういう暑い日は、外で働いている奴隷達をいじめるのがいいだろう。


 そう思い立つと、飲み物の入ったコップをとりあえず机に置いて――。


 "カシャン"と音が鳴った。

 

 机に置いたはずのコップが床で割れている。


「あっ……」


 一瞬何が起きたのかわからなかった。


「あああああああああああああ」


 俺様のコップが割れている。

 "何年も使って来た"のに。

 "お気に入り"だったのに!


 俺様の声に驚いて、見張りの部下たちが部屋に入って来る。

 俺様はその部下たちを殴り飛ばした。

 

「片づけて置け!馬鹿が!」


 そう言ったあと、迷うことなく"鞭"を手に取ると、外へと向かったのだ。



     ♦



 むかつく。

 割れたのは俺様のせいかもしれない。置いた時のバランスが悪くて落ちたのかもしれない。

 だが、むかつく。むかつく。


 この鬱憤は、晴らさなければいけないよな?

 

 外は暑い。

 魔族でも暑さは少しくらい感じる。

 それがまた、俺様を苛立出せるのだ。


 手ごろな獲物を探す。

 俺様が奴隷相手に鞭を打つのに、理由なんて必要ない。

 ベナミスにするか?


 そう思った時だった。


「おい!貴様!」


 部下の大声が聞こえた。

 そこにはじじいが倒れていた。

 俺様は"ニンマリ"と笑う。

 あのじじいが倒れたという事は、あの小娘が助けに来るはずだ。

 今日の"標的"は決まった。


 俺様が、ジジイを庇っている小娘へと歩き出すと、


「来ないで!!!」


 と小娘が、"俺様の方を見て"声を上げた。

 とてもいい反応をするじゃないか。


「おいおい、そんな事を言うなよ?」


 小娘が"ハッ"としたようにこちらを見る。

 すこし怪訝な反応だが……まあ、いいか。


「そんなに、このジジイが大事か?」


 俺様は、そう言って小娘に鞭を打ちつけた。

 小娘の悲鳴が聞こえる。

 いい声で鳴くものだ。


「答えんか?」


 鞭を振るう。小娘の悲鳴が聞こえる。楽しくて仕方がない。 

 小娘の息は荒い。痛みで喋りたくても喋れないのだろう。

 そんなことはわかっていて。答えろと言うのだ。


「ふむ、48番か。お前はよく仲間を庇うよなあ?」


 鞭を振るう。小娘の悲鳴が聞こえる。楽しくて仕方がない。 

 目立つ小娘だ。何回も鞭打ちしたことがある。

 だが、今日の俺は"機嫌が悪い"のだ。いつもより厳しく鞭打ちしてやろう。


「反抗的な目だな。俺様はお前みたいな目が好きなんだよ」


 目を潰す気で、顔に向けて鞭を振るった。小娘のひときわ大きい悲鳴が聞こえる。顔を叩かれたので、痛みが大きかったのだろう。

 だが、少し逸れたようで、目には当たらなかったようだ。つまらない。


「その目をしたまま、苦痛に顔をゆがませるのを見るのが、好きでなあ!」


 鞭を振るう。小娘の悲鳴が聞こえる。楽しくて仕方がない。 

 そう言ったことに興奮するのだ。人間でいうところの、性的な興奮がこんな感じなのかもしれない。

 魔族には"生殖器がない"ので、恐らくとしか言いようがないのだが。


「そして、最後にはそんな目も出来なくなるわけだ」


 鞭を振るう。小娘の悲鳴が聞こえる。楽しくて仕方がない。 

 ベナミスを見た。あいつはいつも怯えた目をしている。

 だが、最初の方はもっと反抗的な目を……あれ?あいつは最初から怯えた目をしていたな。


「おっとあいつは違かったな」


 なんだか興がそがれてしまった。

 もう終わりにするか。


「よし、鞭打ちを続行しろ」


 最後に、ついでに一発入れておく。小娘の悲鳴が"聞こえない"。痛みで気を失ったようだ。

 気を失っても、どうせ目が覚める。それだけ鞭打ちと言うのはきついのだろう。

 俺様は鞭で打たれた事なんてないから知らんがな。


 いつもは少ししたら鞭打ちを終わらせる。

 死んだら生産力が落ちるからな。

 だが今日は、最後まで鞭打ちさせよう。

 何故なら、今日の俺様は機嫌が悪いからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ