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ゼンドリック・エイレストその9

 城を出て、城下町を歩いている辺りで俺は部下達に出会った。やはり外で大人しくは出来なかったようだ。

 

「隊長奇遇ですね!」


 奇遇ですね、ではない。一応、俺達は軍隊で、ここは他国なわけだ。いらない面倒は避けて欲しいものである。


「お前らなあ……」


 俺は怒ろうとしたが、副隊長のリリッチに手で静止されてしまう。


「隊長のおっしゃりたいことはわかります。ですが、街にいれてくださったのは、この国の軍団長という方ですよ」


 どうも勝手に入ったわけではないらしい。

 我々の軍にも寝床をくれると言っていたから、俺が戻るよりも早く、場所を提供してくれたのだろう。

 

「まあ、ティルネはそれよりも先に入っていたけどね」


 やはり怒った方がいいようだ。

 俺は逃げようとするティルネを片手で捕まえると、そのままぶん回してやる。


「うわあああああ」


 叫ぶティルネをそのまま投げ飛ばすと、ティルネは空中で一回転して華麗に着地した。


「それで、その軍団長殿というのはどこに?」


 軍団長と言えば、俺と同じ序列である。

 そうなると、やはり興味は湧くものである。


「私達を案内して、そのまま兵達のところに残りましたよ」


 熱心な事である。

 それに比べてこいつらと来たら……と思う。


「わかった。じゃあ案内してくれ」

「そのために来たのです。こちらへ」


 そう言われれば聞こえはいいが、絶対にただうろついていただけである。

 だが、俺は何も言わずに、リリッチの後を追ったのだった。



     ♦



 案内された先は、なんというか――広かった。

 最初に言われた時は何を言われているのかわからなかったくらいだ。


「ここです」


 そう言われた時はどこだよと思ったけど、なんと凄く広い区画をそっくりそのまま渡してくれたらしい。

 実を言うと、連れて来た半分以上の兵は外で野営だと思っていたのだが、全兵士が入れるだけの区画を与えられたという。


「なんか悪いというか……」


 その先は、はっきりとは言葉にできない。

 何故なら、これだけの人が住む土地が余っているほど、兵が死んだという事なのだろうから……。


「え?なになに?」


 ティルネは無邪気に俺が呑み込んだ言葉を聞いてくる。実際にわかっていないのだろう。


「やめなさいティルネ」


 だが、他の者はわかっているようである。

 ティルネも重い空気を悟ってか、それ以上追求しては来なかった。


 区画へと入ったのはいいが、兵達は何故か移動をしているようだった。


「おい、どこへ向かってるんだ?」

「はあ、なんかアジェーレ王国の軍団長様が広場に人を集めていまして……」


 俺が適当な兵に聞くと、そんな答えが返って来た。

 理由はさっぱり見当もつかない。

 だが、広場に集めているというのならば、行ってみればわかるのだろう。


 だから、俺達はすぐに広場へ向かおうとした――のだが、どこが広場かわからない。仕方がないので人の流れに従っていくことにする。



     ♦



 広場は我が軍の兵士で溢れかえっていた。それでも、なんだかしっかりと並んでいるようにすら見える。

 俺達は人づてに聞きながら、アジェーレ王国の軍団長を捜す。

 そして、それはすぐに見つかった。


「なあ、あんたがアジェーレ王国の軍団長か?」

「ん?なんだ?気持ちがはやるのはわかるが、ちゃんと並ぶんだ!」


 アジェーレ王国の軍団長は意味が分からないことをいう、そもそも俺はこれから何が起きるのかも知らないのだ。


「俺はこの軍の軍団長だ」

「おお!これは失礼を。私はアジェーレ王国の軍団長。レミトル・サメクだ!」


 レミトルの第一印象としては、大きい体に大きい声である。後ろでティルネが「隊長に似てるね」と言っているのが聞こえて来た。俺こんな感じか?少なくとも顔は似てないと思うけどな。


「俺はエイレスト王国の軍団長。ゼンドリック・エイレストだ!」


 とりあえず俺も挨拶をし返して置いた。


「エイレスト?王家の者なのか?いや、なのですか?」


 レミトルは急にかしこまった感じになる。


「敬語はいいよ。お互い軍団長。立場は対等だろ」

「おお、そうか!」


 レミトルはなんだか天然ぽい感じである。

 まあ、それが悪いとは思わないが。


「それで、俺はエイレスト王の従兄なんだ。でも、あんまり王家であることは意識してないけどな」

「おお、そうなのか」


 なんだか話し込んでしまったが、こんなことを話しに来たわけではなかった。


「それで、これはなんの集まりなんだ?」


 正直に言うと、勝手に他国の人間に軍を動かされるのは困る。


「え?あ、ああ。知らなかったのか。これから歌姫ウルスメデス様がくるのだぞ!」


 そう言われてみれば、先ほどウィグランド王が歌姫がどうのこうの言っていた気がする。

 だからと言って、わざわざここに集める必要があるのかはわからないが。


「そうなのか。誘導感謝する」


 と言っても、既に集められてしまったものは仕方がないだろう。


「おお!そしてここは特等席だ!実は貴公の所もとってあるのだ」


 確かに目の前には空の壇上のようなところがある。

 もしかして、率先して誘導していたのは自分の席を取りたいがためだったということはないだろうか?

 流石にないか。


「それはありがたい。こいつらもいいか?」


 俺の後ろで黙って控えていた四人を指さす。

 こいつらが黙っていたのは、流石に他国の軍団長との会話に割り込んでくるようなことはないからだ。


「もちろんだ。多めに場所はとってあるからな」

「かたじけない」


 そして全員で座り込んだ辺りで、ちょうど壇上に姿を現した美しい女性がいた。

 その美しさは、我が国で一番美しいオージェリンにも負けず劣らずであると私は思った。


「皆さん。遠いところ、私達を助けに来ていただきありがとうございます」


 そして、その声は、これほど美しい声は初めて聴いた。そう言い切れるほど美しい声だったのだ。


「せめてものお礼に、私が歌わせていただきます」


 歌姫は、深く礼をして歌い始めた。


「~~~」


 なるほど、確かに素晴らしい歌である。

 我が軍の奴等も、黙って大人しく聴きいってしまうほどだ。

 そして、隣にいるレミトルは感動の余り涙まで――涙まで!?流している程である。


「~~~」


 それから割と長い間、曲を変えながら歌い続けると、歌姫の歌は終わり、歌姫はすぐに帰って行ってしまった。

 何故かとレミトルに聞くと、歌姫様はとても忙しい、次の場所で歌わないといけないからとのことだ。そして、レミトルもすぐにどこかに行ってしまった。

 そういえば、俺が城に行った時も歌声が聞こえていた。城の全兵士に聞かせて回っているのなら、とても大変なのだろうと思う。


 これだけの歓迎をしてもらったのだ。

 俺達もそれに応えなければならないだろう。

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