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ゼンドリック・エイレストその8

 俺はハレスレダ王国の第二王子として生まれ、王子と言う身分に囚われずに自由に生きて来た。

 ハレスレダ王国がエイレスト王国に取り込まれてからもそれは変わらず、長い旅へと出ていたのだが、魔王軍と遭遇してしまう。

 俺はすぐに国へ帰り、その事実を伝えた。

 そして、国へと残ったのだが、何故か気が付いたら、エイレスト王国の軍団長にされてしまっていたのだった。

 いくら魔王が現れたとはいえ、俺は自由に生きたいことには変わりないのに。



     ♦



 俺は軍団を率いてアジェーレ王国へと来ていた。

 理由は援軍である。

 ずっとアジェーレへの援助を望んでいた俺としては嬉しいのだが、それが決まったのはアジェーレが魔王軍の第一軍団を破ったあとだというのだから何とも言えない。


 国としてみれば正しいのだろうが、俺としては卑怯者としか思えない。

 だが、それを黙認して受け入れている俺が非難できたものではないだろう。

 せめて、これから起こる戦いでは、先陣を切ってアジェーレ王国の負担を減らしてやることくらいはしてやろうと思う。


 それとは別の話になるのだが、俺はアジェーレ王国へと来て、とても気分が良かった。


「なんだか機嫌が良さそうだね隊長」


 俺の後ろからティルネという部下が顔を出して、俺の機嫌の良さを指摘した。


「隊長は毎日機嫌がいいですよ」


 横から指摘する声が聞こえる。

 副隊長のリリッチだ。

 確かに俺は毎日機嫌がいいかもしれない。

 でも、こんな俺でも憂鬱な気分になることだってある。


「隊長はやっと戦が出来ることを喜んでるんだよ」


 更に横から、元貴族の剣士であるエスメリイが口を挟んできた。

 確かに戦うのは好きだ。だが今、機嫌がいい理由はまた別である。


「ええ!僕は戦うの嫌いなんだけどなぁ……」


 巨漢で小心者のパモンドがそう言った。

 戦場となれば頼もしい奴だが、戦うのが嫌いなのは本当なのだろう。パモンドが楽しそうに戦っているところを見たことはない。


「違うだろーお前ら。俺はこれから、"あの"ウィグランド・アジェーレと会えるんだぜ」


 それはこの国の王の名前である。

 この、アジェーレと言う国は戦の国と言われるほど、戦に長けた国である。

 そして、この国の王であるウィグランド・アジェーレは王でありながらも強者として有名なのだ。

 魔王軍との戦いでも、第一軍団の軍団長と一騎討ちで勝ったと聞いた。


 冒険者をしていた俺からしてみれば、そのウィグランド・アジェーレに会えることは、とても楽しみで仕方がないのである。


「隊長は、パモンドと違って戦うの好きだからなー」

「そのせいで勝手に敵陣に一人で突っ込むのは困りますけどね」

「着いて行くのは大変だからね」

「僕も足遅いから……」


 みんな好き勝手に言ってくれる。


「何とでも言え。じゃあ俺は行ってくるから。大人しく待ってるんだぞ」

「はーい」


 そう言っても大人しくしているとは思えないが、そうそう行く場所もないだろう。

 アジェーレ王の居場所はアジェーレ城ではあるが、ほとんど砦である。

 平民は内地へと避難しているため、城下町であったであろう場所にも兵隊が住んでいるだけどある。

 だから、娯楽になるような場所はないのだ。

 

 我々は大軍なので、その国の外側で待機させてもらっているが、わざわざ中を見に行くこともないはずである。

 ティルネ辺りが勝手に国に入って行って、他の3人もなし崩し的に中に入ってしまうということはない……はずである。


 ……それはともかくとして、俺は一人で心を躍らせながら、城へと向かうのだった。



     ♦



「エイレスト王国軍団長のゼンドリックだ。アジェーレ王様に会いに来た」

「はっ!遠路はるばるご苦労様です!」


 俺が挨拶をすると、城の門番は威勢よく返事をして、深く頭を下げ、中へと通してくれた。

 流石は戦の国である。門番ですら強そうな雰囲気である。


 俺は案内人の言う通りに、城の中を歩くのだが、とても気になることがある。

 城の外にいたときからのことだが、綺麗な歌声が聞こえて来ていたのだ。

 それは、城の中に入ると、より一層大きく聞こえて来ていた。


 これが恐らく、"戦の国の"有名な歌姫ウルスメデスの歌声なのだろう。

 芸術に疎い俺でも、聞き入りたくなるほど素晴らしい歌声である。


「ここです」


 だが俺は歌を聴きに来たわけではない。

 それに歌よりもやはり、この扉の先にいるウィグランド・アジェーレの方に興味があるのである。


 大きな扉が開き、中があらわになる。

 しかし、目に入ってきたのは空の玉座であった。


「すいません。ウィグランド王は戦場に出てまして……まもなく戻りますので、しばしお待ちください」

「あ、はい」


 なんだか肩透かしであるが、よく考えたらそうでもない。

 我々が来るのが"わかっていても"、ぎりぎりまで戦場に出ているという事なのだ。

 戦に生きる王なのであろう。


 それから少し待つと、アジェーレ王様は姿を現した。

 アジェーレ王様の見た目は、まさに歴戦の勇士という感じで、俺の心は昂った。

 隣に控えている、軍師らしき人物も、きっとかなりの切れ者なのだろうと思う。


「アジェーレ王様!お会い出来て嬉しいです!あなたの武勇は魔王軍の侵攻が始まる前から聞き及んでいました!」


 気持ちがはやり過ぎてしまい、俺はアジェーレ王様にまくしたてるように喋りかけてしまう。


「う、うむ。そうか」


 すると、アジェーレ王様は困ったように返事をした。

 しまった。失礼にも程があった。


「あ……失礼いたしました」


 急いで謝り、すぐに語り直した。


「私はエイレスト王国の軍団長である、ゼンドリック・エイレストと申します。この度、アジェーレ王国の助力するため参りました」


 王族であることを良く思ったこちはないが、こういう時は、きっちりと教育を受けといて良かったと思う。


「そうか、ご助力感謝する」


 断られるという事はないだろうが、少し緊張していた。

 やはり、後から本隊を送ってきたのは失礼だろうと思っているから。

 

「ここに来るのも大変だったであろう。休む場所も、食料も用意はしてある。それに、歌姫の歌も聞くといい。今日はゆっくり休んでくれ」


 しかし、アジェーレ王様はそんなことはおくびにも出さなかった。

 戦が強い男は懐も広いのだろう。

 とても尊敬が出来る。


「はい!ありがとうございます!」


 俺は心の底から感謝をすると、王の間から去ったのだった。

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