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ウィグランド・アジェーレその1

 私は、アジェーレ王国の王族として生まれ、王となった。

 しかし、魔王軍が現れ、我が国を襲ったのだ。

 私達は力を合わせ戦った。


 様々な仲間達が、私を支えてくれた。

 愚かな私の代わりに知識を貸し出す、軍師のキルエス。仲間を鼓舞する歌姫ウルスメデス。我が軍の軍団長のレミトル。そして、魔王領で魔族に奴隷にされていたが、仲間をつれて逃げ出し、我が軍へと合流した"勇敢な戦士"のベナミス。

 いずれも、頼もしすぎる仲間である。


 長い、長い戦いの果て、多くの犠牲者が出た。しかしついに、私達は魔王軍で一番強いとされている魔王軍第一軍団を撃破したのだった。

 


     ♦



 我々が魔王軍の第一軍団を撃退してから、数か月が経っていた。

 たったの数か月で、疲弊した国が元に戻るという事はない。

 それに、新しい魔王軍の軍団も来てしまっていた。

 しかし、新しく来たという魔王軍の第9軍団の攻撃は、第一軍団程苛烈ではなく、我が国にも少しずつ余裕が出てきている程であった。


 だが、それでも私は常に戦場に立ち続けている。

 王たるものとして、戦場で率先して戦うことこそが正しいのだと私は考えているからだ。

 それに、隣を見れば、心強い仲間達がいるのだから。

 


     ♦



 私が剣を振るうと、最後のモンスターが倒れた。この辺りの敵は倒し切ったようだ。


「流石です!ウィグランド様!」


 隣を見ると、軍団長のレミトルが私を褒め称えていた。レミトルは今日モンスターを倒しただろうか?いや、それはまあいいか。


「よし、次の場所へ向かうとしよう。苦戦をしているところはどこだ?」

「その前にいいかなウィグランド?」


 次の戦場を求める私に、軍師のキルエスが口を挟んできた。


 キルエスは元々、正式な軍師ではなかった。いきなりキルエスのような若者を軍師にするのは難しかったからである。

 だが、魔王軍第一軍団を倒すための作戦の多くはキルエスが発案したと公表し、正式な軍師へと格上げしたのだ。本人は大層嫌がっていたが、私だけに責任を押し付けようなど、そんな事は許さない。"友人"なのだから、互いに苦難も分け合うものである。


 それに伴い、戦場では私と一緒に駆け巡るようになってしまった。

 危険だし、安全な場所から作戦を練って欲しいと頼んだのだが、友人は互いに苦難を分け合うものだろう?と言われてしまった。それを言われたら何も返せないだろう。

 

「なんだ、どうした?」


 あまりこういう止められ方をすることはない。

 だいたいは、次の場所へ導いてくれるのだが。


「城に戻ろうか」


 いや、次の場所へは導いてくれるようだ。

 まだ、陽も傾きだしていないというのに、その先は城のようだが。

 だが、キルエスにも何か考えがあるのだろう。


「わかった」


 それならば私は従うまでである。

 王である私が、従う側であるのは少し変な話かもしれないがな。



     ♦



 城に戻って来ると、美しい歌声が聞こえてくる。

 聞いているだけで、力が湧いてくるような歌だ。

 歌姫ウルスメデスの歌である。

 彼女は朝から夜まで、歌で兵達を鼓舞してくれているのだ。

 兵達は、もう歌姫なくしては戦えない程である。


「ウルスメデスも頑張っているようだな」

「彼女には頭が上がらないね」


 労いの言葉をかけたいところだか忙しそうである。それに、彼女であれば労いの言葉をくれるくらいなら、何か物でくれと言うだろう。

 だから、私達は彼女が歌っている姿を横目に通り過ぎる。

 そして、王の間へと向かった。


 王の間では、とても体格の良い男が待っていた。

 軽装ながら甲冑を身にまとっており、いかにも戦士といった風貌である。


 帰って来る間に、キルエスから話は聞たところ、エイレスト王国が送って来た新しい援軍だそうだ。

 私としてはとても頼もしいと思うのだが、キルエスが言うには我々が勝利したのを見計らって、恩を売りに来ただけだという。

 そうだとしても、我々の状況では受け入れざる負えないのだが。


「アジェーレ王様!お会い出来て嬉しいです!あなたの武勇は魔王軍の侵攻が始まる前から聞き及んでいました!」


 体格の良い男は、私が玉座へと座ると、すぐに大きな声で話しかけてきた。


「う、うむ。そうか」


 その大きな声に私は圧倒されてしまう。


「あ……失礼いたしました」


 私の様子に気づき、相手すぐさま謝罪をした。

 全くの礼儀知らずというわけではないようで安心する。


「私はエイレスト王国の軍団長である、ゼンドリック・エイレストと申します。この度、アジェーレ王国の助力するため参りました」


 名前にエイレストが入っているという事は、王族の関係者なのだろう。

 だが、鍛えられた肉体を見れば、お飾りではない事はわかる。


「そうか、ご助力感謝する」


 相手の真意がどうあれ、断ることは出来ない。

 相手もそれが分かったうえで、軍団を送り込んできているのだ。

 もちろん事前の使者も来ていたが、軍団が来るのが早すぎる。最初から決まっていたことなのだろう。

 

「ここに来るのも大変だったであろう。休む場所も、食料も用意はしてある。それに、歌姫の歌も聞くといい。今日はゆっくり休んでくれ」

「はい!ありがとうございます!」


 そう言うと、ゼンドリックは立ち上がり、王の間を退出していった。


 私はそれを見届けると、キルエスへと話しかける。


「どう思う?」

「思ったよりも派遣して来た兵が多いね。エイレスト王国はこのまま魔王軍を潰すつもりだと思う」


 キルエスは冷静に返事をした。

 キルエスの読みでは、あまりエイレスト王国に好きにさせると、魔王領をそのまま持って行かれてしまうという。


「魔王軍を退けられるならいいではないか」

「駄目だよ。その後の事も考えないと」


 そんなことを言われたって、そんな余裕はないのだ。


「ああ、わかっているよ」


 だが、私はそう答える。

 もちろん、何もわかっていないのだが。


「もう、頼むよ」


 だが、大丈夫だ。

 私にはキルエスがいるのだから。

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