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モルディエヌス・エイレストその8

 私は小国の王子として生まれた。母様はとても厳しい人で、幼少の頃から母様に王としての在り方を教えられ続けて来た。

 そして、15歳になった時に、母様の薦めで、近隣の国のシェラミエ姫と結婚し、その王国も自国として統治することになった。

 更に、大国の姫であり、国で一番美しいと言われるオージェリンを妾として娶った。オージェリンはまるで母様のようだった。

 それから、母様の祖国の王が、私に国を託したいといい、エイレスト王国は更に大きくなることになる。

 しかし、良い事ばかりが起きるというわけではなかった。私の父様が病気で死に、伝承でのみ伝えられてきた。魔王軍が現れたと、従弟であり旅に出ていたゼンドリックさんが伝えてきたのだ。  

 だから、私達はオージェリンの国も取り込み、魔王軍と対抗することにしたのだった。

 しかし、その時、母様が父様と同じ病にかかってしまう。

 だけど、母様は病に等まけなかったのだ!病から回復し、また私を導いてくれているのだ!



     ♦



 母様が病から立ち直り、元気になってから更に5年が過ぎた。

 私は、母様の言いつけ通りに政治を進めている。


 魔王軍の侵攻は、しばらくアジェーレ王国で止まってはいたものの、一時期はアジェーレ王国は敗北しかけていたようだが持ち直し、ついには勝利を収めたらしい。

 そろそろ、こちらの国が動く時が来た。そう母様は言ったのだ。

 


     ♦



 そのことについて、私と母様とオージェリンは、離れの療養所話し合っていた。


「同盟を結ぶしかなさそうですね」


 母様がそう言った。


「アジェーレ王国の国力は思ったよりも残っていますね。国王の性格的にも取り込むのは難しいでしょうね。アジェーレ王国と同盟を結びましょう」


 オージェリンも何故か母様と同じことを言う。


「はい、わかりました」


 私は二人に賛同する。


「アジェーレ王国の国王は独り身だと聞きます。同盟の証として、私の娘と結婚させましょう」


 そう言ったのはオージェリンだ。

 アジェーレ王国の国王は結構な歳だったはずである。対して、私とオージェリンの娘はまだ8歳である。

 だけど、問題はないだろう。


「母様?いいですか?」


 私は母様に聞く。


「いいえ。アジェーレ王国には、あなたとシェラミエの子供であるピリフィルを嫁がせるのです」

「母様はピリフィルを嫁がせると言っています」


 問題はあった。

 母様がこう言っているのだ。


「……そうですね。そうしましょうか」


 オージェリンは大人しく母様の言う事を聞いてくれた。

 母様はいつだって正しいのだ。


「それじゃあ、もう帰ってもいいかしら?」


 オージェリンが療養所の扉を開きながら言った。

 聞くまでもなく帰る気なのだろう。


「ああ、私はもうしばらく母様の所にいるよ。母様はまだ体調が悪いんだ」


 そう言うと、母様が「ゴホッゴホッ」と咳込んだ。


「ほら咳だってしてるだろう?」

「そうね」


 オージェリンはそれだけ言うと、黙って去って行ってしまった。


「母様……大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 私はその言葉を聞いて安心すると、母様の顔を拭いて綺麗にしていた。

 その時だった。


「随分と美しい方だったね」


 私の声でも、母様の声でもない声が、この場に響いたのは?


「誰だ?どこにいる!」


 私は激昂して、大きな声を出した。

 誰もここには入らない様に、命令しておいたはずである。


「上からすまなかったね」


 そして、私が上を向こうとした時に、そいつは音もなく降り立ってきた。

 それはピエロの仮面を被った、明らかな不審者であった。

 私は王であるのだから、命を狙われることもあるのだろう。

 だが、今まで実際に襲撃された事などなかった。それだけ兵達が優秀なのである。

 

「誰ですか?」

「何者だ?」


 母様と私は、同じ事を聞く。

 聞くまでもないだろうが、私の命を狙いに来た魔王軍の暗殺者だろうか?


「僕はただの旅人さ」


 だが、不審者はよくわからないことを言った。

 今この場において、正体を明かさない理由があるのだろうか?

 ただ、ふざけるのが好きなだけの狂人なのかもしれない。


「この場に居合わせたからには、生かして帰すわけにはいかんな」


 衛兵はいない。

 何故なら、決してここには近づかない様に言ってあるからだ。

 母様は安静にしておかなければいけないし、大事な国政の話をすることも多いからだ。


 ならば、どう撃退するかというと、それはもちろん、己の体でだ。

 私には、幼少の頃から母様に全てが叩きこまれている。

 もちろん、剣術の腕にだって自信があるのだ。


「へえ、美しい人だね」

「急になんなのですか?」


 ピエロは僕に背を向け、母様の顔を覗き込んだ。

 そのピエロの態度に、私は驚く。


「母様が美しいのは当たり前だろう」


 そして、我ながら妙な返答をしてしまったな、と思うような返事をしてしまう。


「剣を収めてくれないかな。僕は本当に、迷って、ここにやっと着いただけなんだ」


 私はピエロの後ろで剣を振り上げていたのだけど、まるで、全てを見通しているかのように、ピエロが言い放った。

 

 私は少し迷ったが、剣を力なく下に降ろした。

 別に、ピエロの言う事を聞いたわけではない。

 ただ、このまま剣を振り下ろした時に、このピエロに剣を避けられたら、母様の体を傷つけてしまうかもしれないから。


「モルディ。私を気にすることはないのですよ」


 母様にそう言われても、そんなわけにはいかない。


「私の命を取りに来たのではないのか?」


 一向に襲い掛かって来る様子のない変人にの態度に、私は戸惑い、そんなことを聞いてしまう。


「いいや、僕は君と仲良くしたいのさ」

「私達とですか?」


 私や母様の権力に縋り着く人間はたくさんいる。

 こいつも変わっているが、その類の人間だというのだろうか?

 いや、そんなはずがないだろう。


「でも、今日は日が悪いみたいだね」


 そう言うと、ピエロは宙に舞い、高い場所にある窓から外に出てしまった。


「それじゃあ、また来るよ」


 そして、ピエロはそのまま姿を消してしまった。

 来なくていいのだが、来るなと言っても意味はなさそうである。


「母様、無事ですか?」


 私は母様に駆け寄った。


「ええ、なにもされてはいません」


 それはわかっているし、あの変な奴は、本当に何もせずに帰ったのだ。

 何も出来なかったというわけでもなさそうである。


「母様。どういたしましょう?」

「また来るとは言っていましたが、その前に捕えましょう。兵に捜索するように言っておきなさい」


 母様の言う通りにすれば間違いないのだ。


「はい。母様の言うままに……」

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