ゼンドリック・エイレストその7
俺がエイレスト王国に帰ってから7年が経った。
つまり、叔母様の事でモルディが取り乱してから更に5年だ。
病で死にかけだった叔母様だが、なんと奇跡的に回復したらしい。
と言っても、俺はあれから叔母様には会ってないからわからないんだけどな。
そんなことより、数か月前に、あのアジェーレ王国が魔王軍の第一軍団を撃退することに成功したらしい。
やはりアジェーレには凄い戦士が多いのだろう。
そして、そのアジェーレで、エイレスト王国の軍団長が死んでしまったらしい。
だから、代わりにというわけでもないが、俺がエイレスト王国全軍の軍団長をやらされることになってしまった。
あまり人を統べるのは向いていないのだと思うのだがな。
そして俺は今、大軍を率いて、アジェーレへと向かっている最中だ。
と言っても、今は軍全体で野営をして休憩中であるのだが。
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「はぁ……」
俺は何度目かわからない溜息をついた。
「どうしたの?隊長?」
「構わなくていいですよ。ティルネ。どうせいつものです」
「軍団長なんてやりたくないってやつだね」
「隊長なら出来ますよ」
俺の仲間達が口を挟んできた。
元居た部隊は解散させずに、俺の直属の部隊として残ってもらっている。
多少役職は変わっても、こいつらは変わらないもので、そこに安心してしまう。
「あのな――」
「もし……夜分遅くにすまないね。兵隊さん」
俺が仲間と話している時に、突然背後から声をかけられた。
「あ、ああ。誰だ?」
全く気配がなかったことに驚きながら振り向くと、そこには変な仮面をした奴がいた。
「僕は旅人なんだ。少し道を尋ねてもいいかな?」
それくらいは別にいいだろう。
「ああ」
「エイレスト王国って向こうであっているかな?」
どこがエイレスト王国かと言われれば、ここもエイレスト王国の領内である。
しかし、こいつが言っているのは城のある場所だろう。
「そうだな、あっているぞ」
と言っても、ここからは遠い。
こんな立場じゃなければ案内だってしてやるんだけどな。
「そうかい、ありがとう」
それだけ言うと、そいつは気が付いたらいなくなっていた。
少しの静寂が流れ、副隊長のリリッチが口を開いた。
「あの……今の方……変でしたよね?」
そうだっただろうか?
そう思うんなら話に割り込んでくれば良かったのに。
「どうやってここまで来たんだろうね?」
野営中なので、外ではあるのだが、周りは兵だらけである。
確かにおかしい気がしてきた。
「それに、わざわざ、隊長に話しかけてくるなんてね」
道を尋ねるだけであれば、誰に聞いたって変わらないだろう。
その辺の兵に聞けば済む話だ。
いや、誰でもいいなら俺でもいいのか。
「も、もしかして……幽霊なんじゃ?」
パモンドは巨漢のくせに小心者である。
そんな馬鹿な話あるわけないだろう。
「そう言えば、最後消えたわよね?」
確かに、気が付いたらいなくなっていた。
「ま、まあ、ちょっと飲みすぎちまったかもな。今日はこんくらいにしとくか」
そう言って俺は、残っていた酒を飲み干すと、天幕へと戻ろうとした。
「いや!なんで着いてくるんだよ!」
すると、何故か、この四人は俺の後ろに着いてたのだった。
「だってぇ……」
ティルネと小心者のパモンドはわかる。
だが、リリッチは俺の服の裾を掴んで離さないのは意外だし、エスメリイは特に顔色も買えずに着いてきていた。
「僕だけ仲間外れにするのは嫌だよ」
別に何も言ってないのに、エスメリイは心を読んだように答えた。
「わかったよ!仕方ねえな!今日は全員で寝るぞ!」
「わーい!私隊長の隣!」
「あの……わ、私も」
なんだか、たかが幽霊に怯えるなんて平和である。
これから魔王軍と戦いに行くというのに。
俺は、この平和な日々を勝ち取らないといけないのだ。