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ゼンドリック・エイレストその6

 俺は、魔王軍の出現を国へと知らせた後、すぐに魔王軍との前線になるであろうアジェーレへの派遣を希望した。

 アジェーレという王国には、当然旅の最中に行ったことがある。あの国の人間は、誰もかれもが強く、勇猛だった。彼らと一緒に俺は戦いたかったのだ。

 しかし、モルディも叔母様もオージェリンにも、それを拒否されてしまったのだ。

 反対を押し切って勝手に行こうかとも迷ったが、やめた。

 久しぶりに会った国民達は、魔王軍の出現に不安を抱き、俺に守ってくれて言うのだ。それに、親父や弟達だっている。

 俺は、俺の国が好きなのだ。俺の国を守りたかったのだ。


 

     ♦



 そして、国に残った俺には、王国から正式に部隊を与えられた。

 正直に言うと、一人できままに生きてきた俺には部隊なんていらないんだが、そんなことが言ってられる状況でもないだろう。

 いつか、魔王軍とも戦うことになるかもしれないのだ。力を蓄えていないといけない。

 と言っても、アジェーレへ行かないとなると、やる事は街の治安維持と、訓練くらいしかない。

 実に退屈である。

 しかし、部隊の仲間達は個性的だった。

 俺を支える優秀で堅物の女副隊長リリッチ、巨漢で力持ちだが心優しいパモンド、貴族だが剣が好きで兵隊となったエスメリイ、陽気で部隊に元気を与えてくれるティルネ。他にも個性的な奴等がたくさんいる。

 こいつらがいたから、俺は退屈な仕事ばかりでも楽しく過ごせたのだ。


 

     ♦



 そして、俺が部隊の奴らと過ごして2年が経った。

 とにかく気になるのは魔王軍の動向なのだが、アジェーレ王国で魔王軍の第一軍団が戦っているという話しか耳に入ってこない。俺が倒したのは何番目の軍団だったのだろうか?


 2年経っても、俺達のやる事は変わっていなかった。

 と言っても、部隊の奴等は俺が鍛えてやったので、この2年でかなり強くなったのだが。

 

 しかし、俺が魔王軍にばかり目を向けている傍らで、叔母様が倒れてしまった。

 叔母様の事は好きではないが、最近横で見ていると、昔とは違うように感じる。


「あれ?隊長はどこに行きました?」

「さっき、うんこしてくるって言ってたよ!」

「ティルネちゃん……女性がそんなはしたないことを言ってはいけないよ」

「もしかして隊長……またサボってるんじゃ?」


 だから、たまにこうやって仕事を抜け出しては、叔母様の元へと見舞いに行っているのだ。


 そして今日は、叔母様の元へ向かう最中に、オージェリンと会った。

 オージェリンは昔は兄貴の許嫁だったので義姉だったが、今は従弟のモルディエヌスの妾なので、従姉だろうか?

 なんいせよ、もうお義姉さんと呼ぶわけにもいかないし、国王の妻ではあるので、オージェリン様と呼ぶようにしている。

 と言っても、自分からは進んでは会いに行かないので、呼ぶ機会も少ないのだが。


 オージェリンも向かう先は同じだったので、一緒に向かうことにした。

 そして、叔母様の療養所が近くなってくると、モルディの声が聞こえてきたのだ。

 あんなに穏やかなモルディが、声を荒げるなんてよっぽどのことである。

 しかも、掴みかかっていたのは医者である。

 何を言われたかは明白だ。

 だから俺は、


「彼等だって出来る限りの事はやってるんだ」


 こう言ってモルディを落ち着けようとしたのだが、全く効いている様子はない。

 しかし、オージェリンが抱きかかえただけで、落ち着いてしまうんだからなんだか少し悔しかった。


「ゼンドリック。来たところ悪いのですけど、モルディを部屋まで連れて行ってもらえるかしら?」


 オージェリンにそう言われて、モルディを渡された俺は少し戸惑ってしまう。

 俺で大丈夫だろうか?


「お、おう」


 戸惑いながらも、モルディの肩を抱き、俺はモルディと共にモルディの部屋へと向かった。


「その……なんだ。俺も兄貴を亡くした時は悲しかったよ。だが人間いつか死ぬんだ」


 返事はない。

 元々、俺はこういう湿っぽいのには向いてないんだ。

 なんて声をかけていいかわからない。


「まだ死んだわけじゃあないだろ?希望は捨てないでおこう」


 返事はない。

 そう考えると、何故オージェリンは俺達を帰したのだろうか?

 普通は最後まで一緒にいさせるものだろう。

 モルディが錯乱していたからか……。

 そう言えば、俺も兄貴と最後まで一緒にいたわけじゃあないな。


「どうする、モルディ?やっぱり一緒に戻るか?」


 返事はない。

 足は動かしているが、俺の話は聞いているのだろうか?

 そんな余裕もないのだろうか?

 

 そうこうしているうちに、モルディの部屋へと着いてしまった。

 俺が扉を叩くと、随分と美しい侍女が中から出て来た。


「モルディ様!ゼンドリック様ですよね?どうなさったのですか?」


 俺は彼女の事が誰かわからないのだけど、彼女は俺の事を知っているらしい。

 

「すまん、シェラミエはいるか?」

「はい!」

「モルディを休ませてやってくれ。君はこちらへ」


 そう言って、モルディをシェラミエへと渡すと、中から「お父様、大丈夫?」という声が聞こえてくる。そういえば、最近忙しくてモルディ達の子供に会っていないな。

 だが、今はそういう場合でもないだろう。俺は、侍女と部屋の外に出て、侍女へ事情を説明した。


「――というわけだ」

「そうでしたか。モルディ様を連れて来ていただき、ありがとうございます」


 感謝をされるほどの事ではない。


「いえ、とりあえず、モルディが落ち着くまでは休ませておいた方がいいでしょう。それでは」


 そう言って、俺は背を向ける。

 彼女の名前を聞こうと思ったがやめた。

 今はそれどころじゃないだろう。

 それに、そろそろ戻らないと、隊の奴等が怒っているだろうから。

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