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シェラミエ・エイレストその5

 私が王妃となって2年が経ちました。

 王妃としての暮らしは、思ったよりも今までの生活と変わるものではなかった。

 モルディの国へと移住したので、新しく庭にお花畑を作ったし、お菓子を作ったり、編み物をしたりだ。


 だから今日も、私は庭でお花の面倒を見ているのだ。


「もう!またですか王妃様!」


 そんな私に声をかけてきたのはデリアという侍女だった。

 王妃である私を咎めるのは彼女くらいのものである。

 デリアは元はモルディの侍女だったので、私達二人で同じ部屋で暮らすこととなっても引き続き私達の侍女を続けてもらっている。

 私はデリアとすぐに仲良くなり、今ではまるで本当のお姉さんのように感じているのだ。

 

「デリア。すこしくらいいいではないですか」

「駄目です。妊娠なさっているのですから」


 デリアが怒っている理由は単純だ。私が妊娠しているのから、体に気を遣っているだけだ。


「でも、部屋にばかりいても体に悪いでしょう?」


 それは言い訳で、本当はお花の面倒を見ていないと、私は死んでしまうからである。

 それに、まだお腹が目立ってきているという程の時期でもないのだ。


「はぁ……花が心配なのはわかりますが、私がしっかりと面倒を見ておきますから」

「ふふ、ありがとう、デリア!」


 別にデリアを信頼していないわけではない。

 でも、どうしても自分で世話をしたいものなのだ。


「それでは、部屋に戻りましょう」

「そうですね」


 デリアに寄り添われながら、私はお花達の元を去る。


 こんな、今の生活に不満はない。

 でも、ただ一つ不満があるとすれば、モルディと過ごせる時間が少ないことである。

 それは、王としての仕事が忙しいから仕方がないのだろう。

 それでも、夜には必ず私達の部屋へと戻ってきて、私と一緒に過ごしてくれるのだから、私は嬉しいのだ。


 しかしその日、モルディは夜になっても部屋へと戻っては来なかった。

 


     ♦



 翌日の朝になり、私が起きても、モルディは帰ってきていなかった。

 そして、私にはその理由が"わかっている"のだ。

 いつかはこういう日が来るのだと思っていた。

 私のお父様や、モルディのお義父様はそうではなかったかもしれないけど、大国の王というのはそういうものだと理解はしている。


 だから覚悟はしていた。

 だけど、実際にこんな日が来てしまうと、少し悲しいのだ。


 代わりに、いつも通りデリアが部屋の扉を叩き、中に入って来る。

 部屋の扉が叩かれた時、私は少しも期待はしていない。していないのだ。


「失礼します」


 部屋に入って来たデリアは、モルディがいないことに少し驚き、しかし黙って私の近くへとやって来た。


「デリア、知っている?ハレスレダ王国の王位もモルディが継ぐそうですよ」


 デリアは突然の"関係のない話"に、少し戸惑っているようだった。

 だけど、関係がある話である。大国の王であれば、妾が多くいてもおかしくないのだから。


「ええ、もちろん存じています」


 しかし、すぐに返事は返って来た。


「デリアはどう思いますか?」

「どう?ですか?そうですね……国が大きくなるのはいい事ではありませんか?」


 そう思うのは普通かもしれない。

 でも、私は別に"大国の王妃"になりたいわけではないのだ。


「私はモルディさえいればいいんだけどなぁ……」


 私の言葉に、何故かデリアは笑った。

 何が可笑しいのだろうか?


「すいません。私も一緒なのです。今、一番心配しているのは、モルディ様がハレスレダ王国を継いだ時に、私がモルディ様の侍女から外されることですね」


 なるほど、ずっと一緒にいたいという想いは変わらないということだろう。


「それは大丈夫ですよ。私が口添えしておきますから」


 私だってデリアがいなくなったら困るのだ。


「ふふ、ありがとうございます。私は"例えどうなっても"、一生お二人のお側にいさせていただきます」


 とても頼もしい言葉である。

 なんだか力をもらえるようであった。


「それでは着替えましょうか」

「はい、お手伝いさせていただきます」


 そうして、私は"日常"へと戻った。

 これできっと、今日モルディが帰って来た時も、普通に接することが出来るから。

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