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ゼンドリック・ハレスレダその3

 兄貴が死んでからも、俺は変わらない生活を続けていた。

 兄貴の葬儀で会った、従弟のモルディエヌスには何回か会いに行ったが、どうにも叔母だけではなく、義姉も出入りしているようなので、最近は行かなくなってしまった。


 元々、兄貴に継がせるはずだった王位の話は先送りにされている。

 しかし、それはどうあがいても俺になるのだろう。

 なにせ、どこに行ってもそういう扱いを受けるのだから。


「おお!ゼンドリック王子!いつ国王になられるのですか?」

「国王権限で、ギルドの受付に可愛い子を入れてくださいよ」

「息子をコネでお城の兵隊にしてくれよ!」


 街の奴らでさえ、このありさまである。

 俺には王位を継ぐ気なんてさらさらないというのに。

 だから、俺は適当な返事をしてやるのだ。


「親父が死んだらな!」

「それには俺も賛成だ!」

「実力で勝ち取れ!剣なら教えてやる!」


 まあ、こんなところだろう。


 

     ♦



 そんなある日の事、いつも通りモンスター退治にでも出かけようとしていたところで親父に呼ばれてしまった。


「ゼンドリック王子!王様がお呼びです」


 どうせまた説教だろうが、兄さんが死んでからは親父の相手くらいはしてやることに決めている。


「息子くらい直接呼びにくりゃあいいのによ」


 だから、呼びに来た衛兵に文句を垂れても、別に行かないなんていうことはないのだ。


「お父上も忙しいのですよ」


 それは知っている。

 だから王になんてなりたくないのだ。


 

     ♦



「お父様。ご機嫌麗しゅう……」


 俺は父の元へ行くと、丁寧に挨拶をした。

 父は、そんな俺を怪訝な目で見ているのだ。


「慣れんことはせんでいいわ」


 そんな父も、普段は、その慣れない事ばかりしているのだろう。


「そう?で、なんのようだよ親父」


 俺は態度を豹変させると、椅子に"どかり"と座る。

 ここにいるのは王と王子ではなく、親と子なのだから無礼な事などない。


「王位の事だよ」


 説教か何かだと思っていたから意外だった。

 兄が死んでからは、そんな話は出しもしなかったのに。


「一応聞くが、お前は王を継ぐ気はあるか?」


 一応ね。

 もう聞くまでもないような聞き方だ。

 いや、実際聞くまでもないのだろうけど。


「嫌だよめんどくさい」


 親父からしてみれば、予想通りの答えなのだろう。


「じゃあ、モルディエヌスを王にしてもいいな」


 だから、用意されていたであろう答えが返って来た。

 しかし、それに対して、俺はどう答えていいかわからなかった。


「ああ、いいぞ」


 だから、咄嗟にそう答えてしまったのだ。

 いや、モルディエヌスとは何回も会ったし、叔母の子とは思えないほど、素直で優しい子だった。

 だが、叔母の子なのである。


「そうかそうか。ジェーンやテドルも王位を継ぎたくないと言っていてな」


 俺の弟達も、俺と同じ考えなのである。

 いや、弟達だけではない。父親もそうなのだろう。

 この親父は、早く兄に王座を渡して、隠居したがっていたのだ。

 この親にしてこの子あり、というやつなのだろう。

 むしろ兄だけは責任感が強く、異端であったのだ。


「だけど、モルディエヌスには自分の国があるだろう?」


 小さい国ではあるが、立派な国である。


「ああ、だから、近々モルディエヌスはエイレスト王国とデヌティエ王国を継ぐんだ。それで王として問題がなければ、ハレスレダ王国を継がせることにも反対するものは少ないだろう」


 それは知らなかった。

 モルディエヌスは、まだ15歳くらいだったはずである。

 15歳の頃の俺なんて、モンスターを倒して遊んでいた記憶しかない。

 いや……それは今もか。

 なんにせよ、立派なことである。


「それと、その時に婚姻の儀もするそうだ。もうすぐだぞ。お前も行くか?」


 行くか?ではない。


「もっと早く言えよ!」


 行くに決まっている。


「お前が城にあまりいないのが悪いだろう」

「うっ……」


 それを言われると何も言い返せない。


「ふぅ……これで、楽になるな……」


 そう言いながら、親父は窓の外を遠い目で眺める。

 親父もいい歳である。

 親父も楽になれるし、俺も自由になれる。

 良い案なのだろう。

 不安もあれど、反対する理由はないのだ。


 だから俺は、心の奥底で感じている一抹の不安から目を逸らしてしまったのだ。

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