モルディエヌス・エイレストその5
王としての仕事は、父様からずっと教えてもらっていた。
それに、父様と母様が手伝ってくれるのだから、問題なく進んだ。
2国が合併したとは言え、シェラミエの父様は領主として統治にも協力してくれているし。
ただ、最近父様は体調が優れないため、とても心配だ。
だから、今日も僕は公務室で、母様と"オージェリン"に囲まれて公務をしているのだ。
オージェリンは僕の従姉だ。正確には違うようだけど、従姉でいいのだろう。
従姉と言っても、歳は離れているし、姉のような存在である。
母様がオージェリンを連れてきたのはだいぶ昔である。3年ほど前だろうか。
そう、あの葬式のすぐ後である。
僕は彼女がこの国に来た時、凄く驚いたのだ。
彼女は、僕に歴史を教えてくれる先生として来たのだった。
それからずっと、僕は彼女によくしてもらっている。
だから、今も公務を手伝ってもらっている。
なんだか"母様のよう"で、信頼できるのだ。
ただ、ちょっと母様のようというには、刺激が強すぎるのだけど。
いつも露出の多い服を着ているし、なんだか距離が近いから。
今だってそうだ。
僕の後ろから、抱き着くような恰好で耳元でささやくのだ。
「モルディ。ここ間違ってるわよ」
母様の前だというのに、近すぎる。
でも、母様も不思議と何も言わないのだ。
「モルディエヌス。手が止まってますよ」
「はい、すいません」
こうして公務は進んでいく。
「モルディエヌス。税を重くしましょう」
「それはいい考えですわ。お母様」
「はい、母様、オージェリン。そうします」
「モルディ。国同士の繋がりが強くするために、道の整備を重点的に行いましょう」
「いい考えね。オージェリン」
「はい、母様、オージェリン。そうします」
母様達の言う通りにしていれば、全て上手くいくのだ。
♦
そんなある日の事だった。
「モルディエヌス王!」
僕がいつもの通りに公務を行っていると、慌てた様子で衛兵が部屋へと入って来た。
「どうしたんだい?」
尋常ではない様子である。
「お父上が、お倒れられになりました!」
確かに体調は良くはなさそうだったけど、そこまで悪くはないと思っていた。
とにかく、僕達は、それを聞いてすぐに父様の元へと駆け付けたのだ。
♦
「あなた!」
寝所に横たわる父様の元へと、母様が真っ先に駆け付ける。
「父様の様子は?」
僕は、医者に話を聞いた。
「流行り病ですね。"亡くなったヴァスティーナ王"と似た症状が出ています」
それを聞いて、僕はオージェリンの方を見る。
彼女は、酷く動揺した様子だった。
彼女の父が侵され、死に至らしめた病と同じ病が今、目の前で僕の父様に襲い掛かってしまっているのだ。
「良くならないのですか?」
僕はそう聞くと、医者は黙り込んでしまった。
つまり、そう言う事だろう。
父ももういい歳ではある。
だが、死ぬにはまだ若すぎるだろう。
「モルディ」
その時、父の声が聞こえて来た。
目を覚ましたようだ。
「はい、父様」
「私の事は気にするな。お前にはやる事があるだろう」
それはもちろん、王としての責務だ。
「はい、父様も。こちらはご心配ならずに、ご安静に」
自分の事より国の事。
父様は立派な王だったのである。
そして、僕も立派な王にならなければならない。