シェラミエ・デヌティエその3
モルディエヌス様に出会ってから2年が経ちました。
交際は順調で、今ではモルディエヌス様を愛称のモルディと呼ぶようになってしまいました。
私の方は愛称がないので、シェラミエのままですが……。
モルディは想像したような王子様とは違かったかもしれません。
ですが、私には優しくしてくださいますし、お花にも興味を持って、自分の部屋でお花を育ててくださっているそうです。モルディ様のお母様が厳しいそうなので、庭で育てることは許していただけなかったようですが。
あと数年もすれば、私達は正式に結婚をするでしょう。
私は、それが今から楽しみでしょうがないのです。
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そして私は――少しはしたない言い方をしますと――モルディにべったりなのです。
モルディは週に1回しか、私の領地に来ません。
隣国と言えども、王族がそう易々と行き来するのは難しいのでしょう。
私から行こうにも、"やんわり"とモルディのお母様に断られてしまいます。それに、モルディ様もお母様に賛同するのです。
だから、私はモルディの国に行ったことはないのです。
そして、その1回が今日だったのですが……今日はモルディの親戚の葬儀だというのです。
しかも、その方は大国であるハレスレダ王国の王子様だと聞いて驚きました。
それでも、週に1回しかない、私とモルディの逢引きの間に入られたら困るのです。
だから、私は葬儀に参列することにしたのだ。
少し変わった逢引きになるけど、構わないだろう。
私は、ハレスレダ王国とは何も関係ないけど、近隣の王族は参加していいと言われていたので、お父様に無理を言ってお願いしたのだ。
でも、少し不謹慎かもしれない。
なんだかそう考えると、良くない事の様な気がしてきた。
だけど、もう馬車の中で、すぐにハレスレダ王国へと着くのである。
今更そんなことを考えても仕方がないだろう。
モルディの事だけを考えよう。
そして、それから間もなくして、私はハレスレダ王国へと辿り着いた。
馬車が止まると、私はすぐに馬車の外へと飛び出した。
何故なら、馬車に乗りっぱなしで疲れてしまったからだ。
そして、私が解放されて伸びている時に、近くに止まった馬車からモルディが出てきたのだ。
偶然である。いや、運命だろう。
「モルディ!」
だから私は、彼の名を大きい声で呼ぶと、彼の元へと駆け寄ったのだ。
「シェラミエ」
モルディの声は低く、静かである。でも、その冷静な様子も好きなのだ。
「会えてよかったです」
そこで私は、モルディにばかり目がいってしまっていたことに気づく。
モルディのお父様とお母様もいるのだ。
「お義父様とお義母様も。ごきげんよう」
だから、急いで私は挨拶をした。
「おお、ごきげんようシェラミエ」
モルディのお父様が返事をする。
私は、モルディのお父様は優しくて大好きだ。
でも、モルディのお母様は少し怖い。
お義母さまになる方なので、そんなことを考えてはいけないのだろうけど、それでも怖いものは怖いのだ。でもきっと、"厳しいだけ"なのだろう。
そんなお義母さまだけど、今日は用事があるようだ。
この国はお義母さまの故郷だと言うので、普通のことだろう。
だから、私の両親と、お義父様。それにモルディと一緒に葬儀へと向かった。
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葬儀へと参列すると、モルディの従兄弟だという方が話しかけて来た。
従兄弟ではあるが、モルディより全然年上だ。それに全然似ていない。
モルディはどちらかと言うと小柄だと思うのだけど、このゼンドリックと言う方は驚くほど大柄だ。
もしかして、モルディも将来こうなってしまうのだろうか?それは少し嫌だなと思った。
しばらくすると、葬儀は進み、参列者たちの一部が棺桶へと花を入れていく。
一部と言うのは、当たり前だけど、全員が花を入れられるほど棺桶は広くないので、希望者だけが並んでいる。
私は、その列に――並んでいた。
モルディの従兄弟であるなら、私の従兄弟でもあるのだ。全くお顔を拝見したことがないというのは問題があると思う。
でも、並ぶ際に人波に阻まれて、モルディの少し後ろになってしまった。
仕方がないだろう。
並んでいるうちに、モルディの番が回って来る。
モルディも、この方に会うのは初めてだと言っていた。
いったいどんな気持ちなのだろうか?想像もつかない。
そして、少しすると、私の番が回って来る。
セレームという王子らしいが、ゼンドリック王子とは似ても似つかない。
むしろ、モルディに似ているだろう。
モルディは大きくなったら、きっとこうなるのだろうと思う。
私はお花を入れると、少し手を合わせて、安らかに眠ってもらえるように祈った。
その後は流れに沿って歩いて行くと、とても美しい女性に「ありがとう」と声をかけられた。
誰かはわからないが、本当に美しい方だった。
私から見ても、羨ましいくらいに。
人の流れから解放されると、私はすぐにモルディの元へと向かう。
すると、ゼンドリック王子とモルディの会話が聞こえて来た。
あの美しい方は、オージェリンという、セレーム王子の婚約者だったらしい。
「まあ!婚約者だなんて。私達みたいですわね」
私は素直にそう思ったことを口にした。
だけど、もし自分が、モルディを失ったら、それほど悲しいことはないだろう。
そう考えると、なんだかとても悲しくなってしまうのだった。